13 魅花と阿鳥の歩んできた道、歩んでいく道(魅花視点)
魅花がベビーカーを押して歩いていると、向こう側からスーツ姿の男が歩いてくるのが見えた。
阿鳥だと気づき、思わず足を止める。
仕事中だろうか。
「魅花……」
阿鳥もこちらに気づいたらしく足を止める。
「……元気そうじゃねーか」
「普通だよ。そっちは?」
「……就活だ」
「あれ? 仕事決まったんじゃなかったっけ?」
いちおう彼からは養育費をもらっている……というか、取り立てている感じだが。
もっとも、その養育費も滞りがちだ。
何せ彼には何人もの人妻に手を出した慰謝料が重くのしかかっている。
それを払い、彼女にも養育費を……となると、完全にパンク状態なのだろう。
まあ、もらうものはきっちりもらうつもりだし、同情はまったく湧かないが。
「辞めたんだよ。だから新しいところを探してる」
阿鳥は舌打ち混じりに言った。
「けっこう給料いいって聞いたけど」
「上司がムカつく奴だったんだよ。ケンカしてそのまま辞めちまった」
「こらえ性ないなぁ」
「うるせーよ」
阿鳥がまた舌打ちをする。
この二年で職を転々としているのも、この成長しない精神性によるところが大きいのだろう。
「お前こそバツ2だって聞いたぞ。ちょっと顔がいいとすぐ男に引っかかって熱を上げて……で、すぐに失敗して……って感じらしいな」
「っせーな、あたしの人生に口出しすんなよ!」
ムッとして、思わず汚い言葉遣いになってしまった。
「へっ、今は風俗で働いてるんだったか? お前も金で苦労してるみたいだな」
「風俗はもう辞めたってば。あんたこそ、今度こそ長続きさせてよ。あたしに払う養育費分を稼いでもらわないと」
「うるせーな、どこの職場に行ってもムカつく上司がいやがるからな……」
この分だと、またすぐにやめてしまうかもしれない。
こんな奴に頼らず、とにかく自分の力で稼がなければならない。
また恋もしたいし、今度こそちゃんとした男を見つけて結婚したい。
人生、ままならないものだ。
「……子どもには興味ないんだ?」
阿鳥はさっきから赤ん坊と目を合わせようともしない。
興味がないのか、あるいは向き合うのが怖いのか――。
「ちっ、忌々しい」
「あんたの子どもだろ!」
「知るか!」
(最低だな、こいつ……!)
魅花と阿鳥は憎々しげに睨み合う。
どうして、こんな男に心も体も許してしまったのだろう。
結局、そこから人生が狂ってしまった。
叶うなら、時間を戻してやり直したい。
最近、特にそう思うことが多い。
結局、コータとあのまま付き合い、平凡でも穏やかで幸せな結婚をするルートを歩むべきだったのだろう。
今さら後悔しても、もう遅いのだが……。
「ちっ、もう行くからな。あー気分わりい」
阿鳥は舌打ち混じりに背を向け、去っていく。
魅花も無言でベビーカーを押しながら、反対方向へと。
二人はそれ以上言葉を交わすこともなく離れていく――。
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