12 二年後、それぞれの今日と明日3


 今日は土曜日、真白さんとデートだ。


「お待たせ。ちょっと支度に時間がかかっちゃって……ごめんね」


 待ち合わせ時間の十分くらい前に彼女がやって来た。


「ううん、俺も今来たところ」


 ――本当はに十分近く前から来てたけど、内緒だ。


「本当は二十分くらい前から来てたんじゃない? コータくんのことだから」

「即バレ!?」

「私ももう少し早く来たらよかったね」

「いや、俺が早すぎるだけだから……はは」


 苦笑しつつ彼女を見つめる。


 三十二歳になった今も、真白さんはあいかわらず美人だ。

 むしろ、三十代になって色っぽさが増してきている気がする。


 俺は来年には就職活動をして、順調にいけば、次の年で就職。

 その辺りで真白さんと結婚したいな、と思っている。


 まだ正式なプロポーズはしてないんだけど、彼女が不安に思わないよう、就職を機に一緒になりたい、というのは事あるごとに伝えてあった。

 真白さんの返事があいまいなのが気になるところだけど――。


 たぶん、俺の負担になりたくないんだろう。

 ああ、早く結婚したい。


 ……子どものこともあるしな。


 本当はすぐに結婚して、妊活した方がいいんだろうか。

 その辺も考えているけど、相談しても真白さんにはぐらかされちゃうんだよな。


 そろそろ、俺の方からもっと強く出るべきか。


「どうしたの、コータくん。私のこと、ジッと見て」


 真白さんがキョトンと首をかしげた。


「あ、えっと、美人だなぁ、って」

「えっ? もう……えへへ、ありがと」


 俺たちは微笑み合った。


 ナチュラルに惚気てしまったけど、俺と真白さんの日常会話としては、ごく平常運転だった。




 食事した後、俺たちは一緒に川辺を歩いていた。


「ふふっ」


 真白さんが小さく笑った。


「ん、どうかした?」

「ううん、幸せだな、って」

「えっ」

「別に特別なイベントなんてなくてもいいの。こうして君と二人で一緒に歩いているだけで、私は十分」

「真白さん……」

「君が側にいてくれるだけで……十分満たされるの」


 真白さんが俺を見つめた。


「一緒にいてくれてありがとう、コータくん」

「俺の方こそ――」


 周囲を見回すとちょうどひと気がない。

 俺は真白さんと軽く唇を合わせ、


「ねえ、今度……おじさん、おばさんに会いに行きたいな」

「えっ、お父さんやお母さんのところに、ってこと?」

「うん。真白さんと付き合い始めてから、まだ会ってないし……」


 結婚の挨拶の時に会いに行こうと思っていたけれど。

 別にその前でもいいよな。


「そ、それって……そういう意味……?」


 あ、誤解されてしまった。


 いや……誤解じゃなくて、このまま話を進めてしまうか。


「うん、そうだよ」


 俺は彼女に向き直った。


「俺、来年には就職だし、そろそろ結婚に向けて動き始めても……いいよね?」

「コータくん……」


 真白さんの瞳が揺れている。

 その瞳が潤みだす。


「……嬉しい」


 最近は、俺たちの間で『結婚』というのが具体的になりつつある。

 もう一息だ。


 もう一息できっと彼女とゴールイン。

 そしてそのゴールインは、スタートでもあるんだ――。

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