11 二年後、それぞれの今日と明日2

 と、今度は懐かしい人物に再会する。


「魅花――」

「あ……コータ……」


 坂道でベビーカーを押していた魅花が、俺を見てわずかに会釈する。


 可愛らしい女の子の赤ん坊が、俺を見てきゃっきゃっと笑う。

 確か二歳のはずだ。


 出産直後から色々と大変だったらしいことは、噂で聞いていた。


 相手の男――須山阿鳥は産まれてきた子どもには全く興味を示さなかったらしい。

 ただ、何か大きなトラブルを抱えて、そのせいで大学を中退し、働いているということだ。


 みんな、人生にはいろいろあるんだなぁ。


 ……と、よく知らないので、そんな感想を抱くしかない。


「あいかわらず楽しそうだね」

「えっ、そうか?」

「めちゃくちゃ幸せそうに見える」

「まあ、幸せ……かな」


 真白さんがいるからな。


「なんかムカつく」


 魅花が顔をしかめた。


 そんな母親とは対照的に、赤ん坊がきゃっきゃっと笑っていた。

 魅花は美人だから、彼女に似たら、きっとこの子も可愛くなるだろう。


「魅花はその……どうしてるんだ?」

「ま、楽しくはないよ。離婚したばっかだし」

「あ……」


 そう、魅花も大変だったってことは噂や、前にも偶然会って、そのときに聞いていた。


 両親の助けを受けながら子どもを育て、職を転々としていること。

 何度も男に引っかかり、去年結婚して離婚し、また結婚したこと。


 そして今の話だと、ふたたび離婚したようだ。


 つまりバツ2か……。


 手ひどい振られ方をしたし、彼女にはいい感情を持っていないけど、一方で心配な気持ちはやっぱりあった。


 未練……とは違う。

 情の欠片が心の隅に残っている感じ。


 とはいえ、俺にとって大切なのは真白さんだし、あまり魅花にかかわろうとは思わないけど。


「とりあえず、この子は責任もって育てないとね。父親は育児どころじゃないらしいから」

「えっ」

「阿鳥の奴、五人分の慰謝料でヒイヒイ言ってるのよ。ふん」


 魅花は鼻を鳴らした。


「しかも、しょうもない女に引っかかって、そいつにも金をむしり取られたとか、色々と……まあ、いい気味だけど。すっかり人生めちゃくちゃね」

「そっか……」

「ま、人生めちゃくちゃなのは、あたしも同じか。あーあ、コータを裏切ったバチが当たったのかな……」

「魅花……?」


 寂しそうな彼女を見て、さすがに哀れみの気持ちがこみ上げる。


 けれど、魅花はそれ以上話そうとはせず、暗い顔で去っていった。


 あの明るかった魅花が――最後まで笑顔をまったく見せずに。


 俺の方をチラチラと振り返りながら、去っていった――。

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