19 桐生計と天ヶ瀬ルルのクリスマスイブ3(桐生視点)

「そんなこと……」


 桐生はルルを見つめた。


「僕の方こそ、いつまで経ってもキスもできなくて……ルル先輩、じれったかったですよね」

「そうだね……もしかしたら計は私のこと好きじゃないのかもとか、やっぱり元彼のことで私が嫌になったんじゃないかとか、ずっと不安だった」

「ルル先輩……」


 あらためて、罪悪感がこみ上げる。


 もっと早く踏み出せばよかったのに。


 勇気が持てなかった。

 気後ればかりしていた。


 あわよくば、向こうからリードして全部ことが進んでくれないか、などと考えてもいた。


「でも、こうして一歩踏み出せたから……よかった」


 ルルが嬉しそうに言った。

 よく見ると、目元が潤んでいる。


「今までの人生で一番ドキドキしたキスだったよ」


 言いながら、ルルは赤い顔で自分の唇を押さえていた。


 人差し指で、先ほどの感触を思い出すように……自分の唇をなぞっている。

 何度も、何度も、嬉しそうに。


『初めて』のキスはもらえなかったけれど、『一番』のキスを捧げてもらったのだ。

 そう思うと、桐生は胸がいっぱいになった。


 そして同時に、心の奥からあふれてくる思いがあった。


「ルル先輩、これからは僕……もっと進んでいきたいです」


 言うなり、桐生は身を乗り出した。

 彼女を抱きしめ、ゆっくりと顔を近づける。


「ち、ちょっと、計――んっ」


 そのまま、半ば勢いに任せてルルの唇に自分の唇を重ねた。

 今度は歯をぶつけず、熱い思いをすべて乗せるように相手の唇を貪り、吸う。


 心臓の鼓動が一気に高まった。

 そっと目を開けると、ルルの方は静かに目を閉じ、桐生からの口づけを受け止めていた。


 うっとりと陶酔したような顔――。

 その顔を見つめていると、愛おしさが募った。


 過去なんて関係なく、今――彼女を独占していることが幸せだった。


「はあ、はあ、はあ……」


 やがて唇を離すと、桐生は大きく乱れた息を整えた。

 呼吸をすることすら、ほとんど忘れていたのだ。


「もう、ちゃんと息しなきゃ駄目だよ」


 ルルが笑っていた。


「す、すみません、全然慣れてないので……」

「初々しいね。そういうところが可愛くて、好き」


 ルルが微笑む。


「えへへ」


 照れ笑いを浮かべる桐生。




 ファーストキスの余韻に浸りながら公園を散策し、やがて別れの時間が来た。


「ねえ、いつか――」


 別れ際にルルが言った。


「いつか?」

「キスだけじゃなくて……もっといろんなこと、したいな? もっと先に――」


 どくんと胸の鼓動が早鐘を打つ。

 キスよりも、もっと先の関係に――。


「僕も……したいです」


 桐生は彼女をまっすぐ見つめた。


「私でいいの? 本当に?」

「ルル先輩がいいです」


 桐生は熱情を込めて、そう宣言した。


「いずれ……近いうちに、きっと」


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