18 桐生計と天ヶ瀬ルルのクリスマスイブ2(桐生視点)


(行け……行くんだ!)


 自分に言い聞かせる。


 付き合って半年以上も経つというのに、未だにルルとはキスもしていない。

 ずっと勇気が持てずに踏み出せなかった。


 けれど、今日こそ踏み出してみせる。


 すでに桐生の緊張は最高潮に達していた。


「……どうしたの、計?」


 ルルが彼を見つめる。

 その目は、明らかに彼を促していた。


「もう一歩、勇気を出して?」


 スッと目を閉じ、軽く唇を突き出す彼女を見て、桐生は弾かれたように最後の一歩を踏み出した。


「ルル先輩……っ」


 夢中でルルの唇に自分の唇を押し当てる。

 柔らかい感触と、互いの歯が軽くぶつかる感触が、同時に訪れた。


「あ、すみません……」


 思わず唇を離してしまう。


「い、痛くなかったですか……僕、失敗して……」

「私は平気。計こそ痛くなかったの?」

「僕も大丈夫です」


 言いながら、恥ずかしくなってしまう。


 ファーストキスの照れくささと、歯をぶつけてしまったことへのばつの悪さ。

 けれど、それを吹き飛ばすように、ルルは明るく笑っていた。


「じゃあ――続きをしましょ?」


 微笑んで、今度はルルから桐生にキスを仕掛けてきた。

 今度はもう少し落ち着いた気持ちで唇を合わせる。


 あらためて……ルルの唇の感触を受け止めていた。


 夢のような心地だった。

 ずっとこの瞬間を想像していたのだ。


 しばらく唇を重ねた後、二人の唇は離れた。


「やっとキスできたね」


 ルルは嬉しそうだった。


 一方の桐生は呆然とした状態だった。


「は、はい……」


 半年以上ずっと想いを溜めこんでいたせいか、一種の虚脱状態である。


 やり遂げたという達成感と、やっと一つのハードルを越えられたという安堵感。

 そして、押し寄せる多幸感――。


「ファーストキスの感想は?」


 ルルが悪戯っぽく笑う。


「え、えっと、柔らかかった……なんか、夢中で……まだ唇に感触が残ってます……」


 桐生は自分の唇をそっと押さえた。

 生まれて初めて異性の唇に触れたそこは、まだ甘い熱の余韻があった。


「……ごめんね。私は初めてじゃなくて」


 ふいに、ルルが申し訳なさそうな顔をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る