12 真白さんの誕生日に、俺はある決意をする2


 真白さんは黙っていた。


 ……なんだか、雰囲気が微妙だ。


 てっきり喜んだり感動してくれたりするもんだと思っていた。


 考えが……甘かったのか。

 だんだん怖くなって、俺はあらためて彼女を見つめる。


「――コータくん、気持ちは嬉しいけど、君は未成年でしょう」


 真白さんの目が冷たかった。


「勢いだけで、こういうことはしないでほしいの」

「ち、違うよ、俺は」

「変に期待させられて、結局駄目だったら辛いから……」


 真白さんがポツリとつぶやく。


 俺としては『結婚のことまでちゃんと考えている』ということを伝えて、彼女を安心させたかった。


 だって、年齢から考えれば、結婚を焦っていたって不思議じゃない。

 不安に思っていても不思議じゃない。


 それを少しでも和らげたかった。


 でも、それは単なる先走りだったのかな……?

 軽々しく言わないで、って以前に真白さんに釘を刺されていたのに。


 気持ちが舞い上がってしまった。


 やっぱり……こういうところが、真白さんから見たら子どもなんだろうなぁ。

 こんなんじゃ、真白さんと結婚なんて夢のまた夢だ。


 長い沈黙が流れる。


 とにかく、何かフォローしなきゃ……。

 顔を上げると、真白さんの目が赤いことに気づく。


「コータくん、ごめんね……言い過ぎた……」


 嗚咽交じりの声だ。

 俺が、泣かせてしまった……。


「私、自分のことで……いっぱいいっぱいで……君の優しさや想いに応えられなくて……ごめんね」


 泣き顔のまま、真白さんの口元にかすかな笑みが浮かぶ。


「プロポーズは驚いたし、最初は……ちょっと腹が立ったりもしたんだけど……やっぱり、嬉しい……すごく嬉しいの……なのに、あんな反応してしまって……本当にごめんなさい」

「真白さんが謝ることじゃないよ。全部俺が悪いんだから」

「コータくんは悪くないよ。君の気持ちから、私が逃げてるだけ」


 真白さんは自嘲気味に言った。


「私の方が、きっと子どもなんだよ。コータくんはもう将来のことを考えてくれているのに、私は怖がって、結局君に振られたらどうしようって恐ろしくて――だったら、何も考えずに今だけを楽しもうって思考停止して」

「真白さん、そんな……」

「ううん、私は逃げ続けてきたのよ。君を失うのが、ただ怖かった。今だけを楽しもうと思った」


 真白さんが俺をまっすぐに見つめる。


「でも、私よりずっと年下のコータくんが将来のことを考えているのに、私ばっかり逃げちゃ駄目だよね……私も、ちゃんと考えるから……もう少しだけ待っていて」

「真白さん……」

「もう『今を楽しめればいい』なんて言葉に逃げこまないし、激しくエッチして現実逃避したりもしないから」

「うん、俺待ってるよ!」


 俺は力強くうなずいた。


 いや、待つだけじゃない。

 彼女にふさわしい男になれるように――早いところ自立しなきゃ。


 彼女と一緒に、これからの人生を歩んでいけるように。


「あ、でも……激しくエッチするのは、別にいいよね?」

「もちろん!」


 あ、思わず身を乗り出してしまった。


「ふふふ……」


 真白さんが妖しく微笑む。


 これは――完全にスイッチが入ったときの顔!


 よし、悩みはいったん心に留め置いて。


 ここからは、めいっぱい愛し合うぞ――。


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