11 真白さんの誕生日に、俺はある決意をする1

 11月9日。


 今日は真白さんの三十歳の誕生日だ。


 仕事を終えた彼女と一緒に、俺のアパートにやって来た。


 最初は外で食事をしようと考えてたんだけど、真白さんが『二人きりでゆっくりしたい』と言ってきたので、結局俺のアパートで過ごすことにしたのだ。

 値段が高めの総菜とか誕生日ケーキとか、あと真白さんはビールも買っていた。


「……なんか、普段とあんまり変わらないような」

「やっぱり外で食事した方がよかった? わがまま言ってごめんね、コータくん」

「い、いや、文句とかじゃないよ。真白さんが望むようにしたいから」

「私はコータくんが一緒にいてくれたら、別になんでもいいの。外だと人の目があるし、家の中で二人で過ごせた方がいいなぁ、って」


 微笑む真白さん。


 それから俺たちは食事を始めた。


「あーあ、とうとう私も三十代かぁ……」


 真白さんがため息をつきながらビールをあおった。


「ふうっ」


 美味しそうに飲むなぁ。

 俺は飲んだことないけど、ビールってそんなに美味しいんだろうか?


「おばさんだなぁ……」

「俺にとって真白さんは『親戚の美人なお姉さん』だよ。出会ったときからずっと」

「えへへ、美人なんて言われると照れちゃうよ」

「本当だって! 俺――」

「ありがと」


 真白さんが俺の頬にチュッとキスをした。

 俺はお返し代わりに彼女の唇を奪う。


「ん……」


 あ、ちょっと苦みがする。

 これ、ビールの味か……。


 そのまま舌を差し入れると、苦い味がまたしたけれど、すぐに甘い感触にとって代わった。


 そのまま互いの舌を絡めるような深いキスを続ける。


 抱き合いながら軽く胸をまさぐると、真白さんが色っぽく喘いだ。

 ……このままエッチしそうな流れだったけど、まだだ。


 その前に真白さんに渡したいものがある――。


 いや、渡さなきゃいけないものが。


「ま、真白さん、プレゼントが――」

「ん、何?」

「えっと、ちょっと立ってもらえるかな」

「? いいけど……なんだろ」


 真白さんが不思議そうにしながら立ち上がった。


 俺はあらかじめ用意していたプレゼントを隣の部屋から取ってきた。


「うう、緊張する」


 真白さんと向かい合う俺。

 プレゼントは後ろ手にして隠している。


「真白さん――」


 俺は彼女の前に片膝をついた。

 まるで王女様にかしずく騎士のように。


「コ、コータくん……?」


 似合わない仕草に、真白さんは目を丸くしている。


 構わず、俺は懐から取り出した箱を見せ、真白さんの目の前で開けてみせた。

 そこには銀色に輝く指輪が入っている。


 跪いてのプロポーズ……あまりにもベタなんだけど、結婚指輪のつもりだった。


 先走りすぎだろうか?

 いや、でも俺は――。


 このまま、突き進んでしまえ……!


「えっ? えっ? 何、これ? えっ?」


 真白さんは混乱しているようだ。


「俺と――結婚してください!」

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