10 冬の始まり・進藤魅花と須山阿鳥3(魅花視点)



 結局、阿鳥は『産んでから話を聞く』の一点張りで、こちらの話を聞こうともしなかった。


 当然、父親としての自覚などないのだろう。

 厄介ごとはそっちで片付けておけ、と捨て台詞まで吐いたのだ。


「くそっ、阿鳥のやつ、あたしだけに全部押し付けて、自分は知らぬ存ぜぬかよ!」


 家に帰ると、魅花は自室で怒声を上げた。


 そんなことは許されない。


 そんなことは――許さない!


「お前にも破滅してもらうからな、くそが……!」


 魅花は口の端を歪めて笑った。


 出産した後、阿鳥がお腹の子の父親として十分な責任を果たすとは思えない。

 まして彼と結婚して、この子を育てていく未来なんて想像がつかない。


 だけど、やはり堕胎することはできない。


 今までキチンと確認してこなかったのだが、あらためて調べてみると、すでに堕胎可能な時期は過ぎていたのだ。


 ならば選択肢は一つだけ――。


 当面はシングルマザーとして育てつつ、いずれ適当な男を捕まえるしかない。

 やはり、ずっと一人だと大変そうだし、新しい恋もしたい。


 生活面で、あまり両親に頼りたくなかった。

 なんだか、格好が悪い。


 プライドが邪魔をして、素直に親に泣きつくことができない。


「それはそれとして……お前にはそれなりの『報い』ってものを受けさせてやるよ……あたしを舐めんな、阿鳥ぃ……!」


 魅花はくすくすと笑いながら、つぶやいた。


 ポケットからスマホを取り出す。

 阿鳥の家の床に落ちていたものを、そのまま持って帰って来たのだ。


 あとで返すつもりだが、その前にやることがある。

 上手くいけば――こちらから反撃の手を打てる。


 と、半ば予想し、期待していたものを得ることができた。


「ガードが甘いんだよ、阿鳥……ふん、外に出るとまずいデータを片っ端からコピーしてやったからな……」


 魅花はニヤニヤ笑いながら、データを整理していく。


 それらはいずれも阿鳥と人妻との密会の記録だ。


 LIMEのやり取りを記録したものもあれば、ホテルで二人がセックスしているところを撮影したもの……いわゆるハメ撮り映像まである。


 これを相手の夫に知らせてやれば、どうなるか――。


 しかも、それが五人分である。


「楽しみだね、阿鳥。あたしの処女奪ってヤリ逃げしておいて、妊娠までさせて……お前もタダで済むと思うなよ、ふふふ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る