7 冬の始まり・俺と桐生計2

 うーん、桐生はキスの経験自体がなかったのか。


「初めてなら、なおさら焦ってするものじゃないだろ。まあ、半年は平均的なペースより遅いかもしれないけど、さっきも言ったように人それぞれだろうし」


 俺は桐生に微笑んだ。


「大事なのは、お前が天ヶ瀬先輩を大切に思っている、ってことを示し続けることじゃないか? 向こうが『半年経っても、キスもしてくれない。計は自分を好きじゃないんじゃないか』なんて思われると、あまりよくないだろ」

「そう……ですね」

「自分の気持ちをちゃんと伝えていくしかないんじゃないか? それから天ヶ瀬先輩がどうしてほしいのかも聞いて……結局は、そうやってコミュニケーションを深めていくしかないんじゃないかな……自分の中だけで完結して、悶々としてても先に進めないぞ」

「そう……ですよね……!」


 桐生は自分なりに何かを納得したのか、何度もうなずいていた。


「影咲希先輩に相談してよかったです。気持ちが軽くなりました」


 桐生は嬉しそうだ。


「正直、俺は大したことは何も言ってないけどな」


 苦笑する俺。


「お前に何かアドバイスできるほど恋愛経験豊富ってわけじゃないし。だから、せめて桐生が言いたいことを言って、気持ちを発散したり整理したり……その手伝いができたら、って思ったんだ。はは」

「先輩……」


 桐生が目をキラキラさせている。


「俺でよければ、いつでも話を聞くよ」

「ありがとうございます!」


 桐生は何度も礼を言っていた。


 いや、だから本当に何もしてないからな、俺。

 でもお前の気持ちが少しでも軽くなったんだとしたら……よかったと思う。




「先輩」


 去り際に桐生が振り返る。


「ん?」

「上手くいくといいですね、その彼女と」

「桐生?」

「僕も、がんばります」

「はは、お互いに年上の彼女持ちだな。がんばろう」

「はい!」


 俺たちは笑顔で別れた。


 ――と思ったら、桐生がすごいスピードで戻ってきて。


「あ、あの、先輩……つかぬことを伺いますが」

「なんだ?」

「キスって、どうやって持ちこめばいいですかね?」

「ど、どうって……そういうの、流れじゃないか?」


 あらためて聞かれると、けっこう照れるな。

 俺が真白さんとキスをするときって、あんまり何も考えてないというか――。


「その流れがよく分からなくて」

「俺も、なんとなくそういう雰囲気になるってだけだし……」

「難しいですね……」

「がんばれ、桐生……」

「はい……」




 ――その後、桐生は天ヶ瀬先輩と色々話し合ったそうだ。

 なんとか仲直りし、クリスマスのデートの約束を取り付けたんだとか。


 よかったな、桐生。


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