6 冬の始まり・俺と桐生計1
放課後、廊下を歩いていると桐生に会った。
桐生は目がうつろで、足取りもおぼつかない様子だった。
「どうした、桐生? 元気ないな」
心配になって声をかける。
返事はなかった。
「桐生?」
「……はい」
もう一度呼びかけると、ようやく返事をしてくれた。
間近で見ると、やっぱり桐生の顔から生気が失せていた。
「もしかして、天ヶ瀬先輩とケンカでもしたとか?」
俺の問いに桐生はハッとした顔になった。
あ、図星か。
「ううう……影咲希先輩ぃぃ……」
「お、おい、お前泣きそうじゃないか! いや、ちょっと待て、もう泣いてるよな!?」
「ううううううう……」
「わ、分かった。俺が話を聞くからさ」
俺たちは中庭のベンチに場所を移した。
「やっぱり……僕とルル先輩では恋愛の経験値が違うっていうか……今まで付き合ったことがなくて経験値ゼロなのと、前に彼氏がいてそれなりの経験があるって、色々……その、上手くかみ合わないというか……」
「うーん、そんなもんなのかな……」
考えてみれば、俺と真白さんもそうか。
俺はいちおう魅花と付き合った経験があるけど、真白さんは俺と付き合うまで恋愛経験自体がゼロだって言っていた。
「ただ、そのことで上手くかみ合わない、って思ったことはないかなぁ……いや、まったくなかったわけじゃないけど、少なくとも大きなケンカはしてないはず」
「……やっぱり、僕がヘタレなんでしょうか」
桐生はめちゃくちゃ落ち込んでるようだ。
経験がゼロだから、自信が持てない、って感じなんだろうか。
うーん、俺に何かアドバイスできることはないかな……?
いや、まずはアドバイスよりも桐生の話を聞いてやることだな。
ただ悩みを話すだけでも、けっこう気持ちが楽になるもんだし。
というわけで、引き続き聞き役モードの俺。
「その……半年たってキスもしてない、って変ですか?」
桐生が切り出した。
「ん、それは……」
つまり、桐生は天ヶ瀬先輩とまだキスもしてない、ってことだよな。
「先輩は……その、どうでした?」
「俺は――」
思いだす。
「前の彼女とは……付き合って一か月くらいでキスしたかな。今の彼女とは、その……付き合った日にしたというか、付き合う前にしたというか……はは」
俺は頭をかいた。
魅花とのファーストキスは普通にデートの流れで……って感じだったし、真白さんと初めて交わしたキスは、酔った勢いとか、俺が魅花に振られて落ち込んでいたのを、真白さんが慰めるような感じで、というか……うん。
「やっぱり……半年って遅いですよね……」
桐生が落ちこんでいるようだ。
「あ、でも、そんなの人それぞれだろ。お前と天ヶ瀬先輩のペースですればいいんじゃないか?」
「実は僕、キスってしたことないんです。でもルル先輩は前の彼氏と経験済みだし……じれったく思ってるんじゃないか、って」
そういえば、天ヶ瀬先輩は元彼がいたんだったか。
あの須山だよな……。
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