4 冬の始まり・天ヶ瀬ルルと桐生計1(ルル視点)
「来月はクリスマスだね、計」
天ヶ瀬ルルは年下の彼氏である桐生計にそう言ってみた。
交際は順調で、クリスマスもきっと彼と一緒に過ごすことができるだろう。
ちなみに去年のクリスマスはまだ前の彼氏――須山阿鳥と付き合っていたころだ。
イブもクリスマス当日も、彼は『俺、家族と過ごすから』と言って、ルルとは一緒にいられなかった。
実はその両日とも別の女と過ごしていた、と知ったのはかなり後の話である。
だから、ルルにとってクリスマスイブやクリスマスには、あまりいい思い出がない。
「……今年は、その、あの……っ」
桐生が顔を赤くしている。
一緒にイブやクリスマスを過ごしましょう、と誘いたいのに、恥ずかしくて言葉が出てこない……という様子だった。
そういう初々しいところも好ましい。
前の彼氏とは、全然違う――。
(……っと、比べちゃ駄目だ。計に失礼)
ルルは慌てて自分の考えを打ち消した。
「? どうかしましたか、ルル先輩?」
付き合って半年近くになるというのに、いまだに彼は自分のことを『ルル先輩』と呼んでくるし、言葉遣いも敬語のまま。
そこも初々しくて好きなのだが、そろそろ『ルル』と呼び捨てにしてほしい気持ちもあった。
「ん……なんでもない」
前の彼氏とつい比べてしまった、などと絶対に言えない。
そろそろ呼び捨てにしてほしい、というのも言いづらかった。
「もうすぐイブだね」
だから、別の話題を振ることにした。
彼が言おうとして言い淀んでいた話題を。
「っ……!」
案の定、桐生は顔を真っ赤にする。
「私、計と一緒に過ごせるのを楽しみにしてる」
ルルが微笑んだ。
「ぼ、僕もですっ」
見つめ合う。
ルルはそっと顔を近づけた。
このままキスしてしまいたい……と思ったが、
「っ……!」
桐生は弾かれたように後ろに下がる。
キスを拒否されたような気がして、ルルは悲しくなった。
「あ……すみません」
桐生がハッとした顔で頭を下げる。
だが……謝られてしまうと、よけいに気まずくなるのだ。
「ううん、私こそ。ごめんね」
実は付き合い始めてから半年たつというのに、ルルと桐生はキスもしたことがなかった。
ルルとしては、早くキスやそれ以上の関係に進みたいという気持ちがある。
すでに経験済みの自分と違い、桐生は初めてなのだから、向こうの歩調に合わせた方がいい、と分かってはいるのだが――。
「……ねえ、もしかして計は私とキスするのが嫌?」
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