第7章

1 冬の始まり・俺と剣ヶ峰春歌

 時間は、あっという間に経ち――十一月になった。


 俺が真白さんと付き合い始めてから、もう五か月以上になるんだよな。


「はあ……」

「どうしたの、コータくん? ため息なんかついちゃって」


 春歌がたずねた。


 ここは教室。

 ちょうど今日の授業が全部終わったところだった。


「いや、時間が経つのは早いなぁ、って」

「もう十一月だね~」


 うなずきながら春歌が言った。


「来月はクリスマスか……」


 魅花と付き合ったのは年明けからだったから、『彼女と一緒に過ごすクリスマス』っていうのは、一度も経験していない。

 今年、真白さんと初めて過ごすんだ――。


「あ、真白さんのこと考えてるでしょ?」


 春歌が俺に耳打ちした。

 周囲に聞こえないよう小声で。


「まあ、な」


 俺は苦笑した。


 春歌も彼氏と過ごしたりするんだろうか?

 そもそも、彼氏がいるのかどうかも知らないが……。


「ボクはクリスマスもお正月も練習だなー」


 と、俺の内心を呼んだような答えを返す春歌。


「あーあ、彼氏ほしいな~」

「えっ」

「何驚いてるの?」

「いや、春歌ってそういうの、興味ないのかと思ってた」


 常に剣道一筋ってイメージだ。


「あー、ひどいなー。ボクだって女の子だよ? むしろ、これ以上ないほど女の子だよ? こんなかわいい子、コータくんの人生で一度でも見たことある? いやない!」

「一人で反語表現完結しちゃったな」

「当然、恋愛にだって興味津々だよ。女の子として!」


 ずいっと顔を近づける春歌。

 力説しているらしい。


 なんか鼻息が生暖かい……。


「なーんて、う・そ。今のボクには剣道だけだな~」


 言って、春歌は俺に背を向けた。


「ほら、やっぱりそうじゃないか」

「えへへ。ま、やっぱり剣道が好きだからね」


 春歌はクスリと笑ったようだった。


「じゃあ、そろそろ部活に行くね。また明日」

「ああ、また明日な」


 俺は去っていく春歌の背を見つめながら、ふと思った。


『今の』ボクには剣道だけ、ってあいつは言っていた。


 じゃあ、過去には……?

 剣道以外にも気持ちを注ぐような対象が、あるいは相手がいた、ってことだろうか……?


「いや、考えすぎか」


 あいつは今も昔も剣道一筋だからな。


「俺も帰るか。最近、真白さんは忙しいみたいだから、会えるのは週末かな……」


 ああ、週末が待ち遠しい――。


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