18 魅花は現実を突きつけられる(魅花視点)

「えっ、でも、ほら……あたし、可愛いでしょ? 阿鳥になびいたのは一時の気の迷いっていうか、あんたがいつまで経っても手を出してこないのが悪いっていうか……」

「そんな言い方するなよ」


 コータの表情が険しくなった。


「あ、いえ、今のなし! ご、ごめんね! そうじゃなくて……もう一回やり直したいっていう話なの」


 魅花はパニックになりそうな自分の気持ちを何とか立て直し、まくしたてた。


 こんなはずはない。


 コータは、きっとあたしを好きなはずだ。

 そうだ、拒絶したのはただの照れ隠しに違いない。


 ちゃんと話せば、コータはきっと元の鞘に収まってくれる――。


「コータってエッチに自信ないんでしょ? 大丈夫、あたしが一から教えてあげるから!」

「――魅花」


 コータがまっすぐにこちらを見る。

 なんだかんだ、魅花の色香に傾いたのだろう。


(ふふ、大人の色気ってやつよ)


 魅花は内心で鼻を伸ばす。


 が、次にコータの口から出た言葉は――、


「俺、もう彼女いるから」

「……………………………………はあ?」


 魅花は絶句した。


「だ、誰よ!? ねえ、誰!? あ、もしかして生徒会長? あんな子どもっぽい女、やめときなよ! あたしの方がいいって!」

「赤羽根先輩じゃない。というか、お前が知らない女性だよ」


 コータが言った。


「もういいかな? よりを戻したいって話なら、俺から言える返事は一つだけだ――『断る』」


 魅花はふたたび絶句した。


 何も言えない。

 頭の中が真っ白だ。


「そういう話なら、これ以上は何も言うことがないよ。俺はお前とは付き合えない。じゃあな」


 言って、コータは背を向ける。


 魅花は呆然となった。


 まさか、これほどまでに――完膚なきまでに拒絶されるとは思っていなかったのだ。


 戸惑ったり、驚いたりしつつも、最終的には元の鞘に収まれるのだと思っていた。


 自分の魅力があれば、コータなんてすぐに虜にできるだろうと高をくくっていた。

 それが――、


「ま、待ってよ! ねえヤらせてあげるから!」


 叫んだが、あっさりと無視された。


「待ってってば――」


 魅花はコータを追いかけようとした。


 だが、できなかった。


 これ以上、情けなく彼にすがるのは……プライドが許さなかった。

 自分は男を追いかけるのではなく、多くの男から追われる存在でなければならなかった。


 だから言えなかった。


 自分が妊娠していることも。

 お願いだから、もう一度付き合ってほしい、という願いも。


 何も――言えなかった。







※次回から第7章になります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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