17 魅花は元鞘を画策する(魅花視点)


 妊娠に関して、阿鳥が責任を取る気がないのは分かった。


 構わずに産んでしまってから、DNA鑑定なり、認知を求める訴訟なりをすればいいのだろうか?


 とはいえ、女子高生の魅花にとって、それは考えただけでも精神的なハードルが高い行為だった。


 そもそも、産むべきなのか、堕胎するべきなのか。

 阿鳥に感じていた怒りは、すぐに現状に対する不安にとって代わった。


「どうしよう……」


 頭の中がグルグルと回っている。

 子どもをどうすればいいのか、全く考えが浮かばない。


「誰か……助けて……」


 暗い顔でつぶやく。

 脳裏に浮かんだのは、以前に付き合っていた一人の少年の顔だった。


(そうだ。コータなら……)




 翌日の昼休み、魅花はコータを屋上に呼び出した。


「ね、ねえ、コータ、ちょっと話したいんだけど……いいかな?」

「……なんだよ、魅花」

「あたし、その、あんたのことが忘れられなくて……」

「えっ?」


 コータはポカンとした顔をしている。


「もうっ、まだあんたのことが……好きなのよ」


 照れたような演技をしつつ、魅花はコータにすり寄る。

 彼は驚いたのか、大きく後ろに下がった。


(あいかわらずヘタレだね。あたしを素直に抱きしめて、キスの一つでもしてくれれば手っ取り早いのに……)


 魅花は内心で舌打ちする。

 まあ、そんな奥手だから、いつまで経っても彼女に手を出してこなかったわけだが……。


 とにかく、向こうが来ない以上、こっちから攻めるしかない。


「魅花、俺は」

「コータだって、本当はあたしのことが忘れられないんじゃない? 一時期、別の男のところに行ったのは悪かったけど、あれはあんたにも責任があるんだからね」

「お前、さっきから何言ってるんだよ? 俺はお前とはもう」

「お願い……キスして」


 何か言いかけたコータを制し、魅花は瞳を潤ませて迫った。

 さりげなく胸を押し付けておく。


(ふふ、絶対意識してるよね……コータみたいな初心な男、あたしなら簡単に落とせる――)

「そういうことはやめてくれ」


 が、コータはこれ以上ないほどはっきりと拒絶の言葉を口にした。


 取り付く島もない、という雰囲気だ。


「俺たち……もう終わったんだ」


 コータからの、この上ないほどの拒絶に、魅花は呆然と立ち尽くした。


 彼は、なんだかんだで自分への未練を持っていると思っていた。

 自分から復縁をちらつかせれば、結局は承諾してくれるのだと――。


 特に根拠もなく、漠然と信じていた。


 だから、突きつけられた現実が信じられなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る