16 魅花と阿鳥は責任を擦り付け合う(魅花視点)


 突然訪れた吐き気は、その後も断続的に魅花を襲っていた。


 もしかして、妊娠したのでは?

 そう思いながらも、不安で検査することができなかった。


 もし自分が身ごもっていたら――。


 考えるだけで恐ろしい。


 検査をして、結果が出るのが怖かった。

 そうやってモタモタしている間にも時間は過ぎていき、吐き気はひどくなり、とうとう魅花は検査を受けた。

 その結果、


「妊娠十週目――」


 医師から告げられた言葉に、魅花は呆然としていた。


「ご家族はこのことを知っているの?」


 女医が心配そうにたずねる。


「え、ええ、まあ、その……」


 魅花は曖昧に答えて席を立った。




 帰り道、魅花は呆然としたまま歩いていた。


 自分がどうやって歩いていたのか、何も覚えていない。

 頭の中が完全に真っ白になった状態で、家にたどり着いた。


 何も考えられない。

 なんの感情も浮かばない。


 自分の腹の中にいるのは、阿鳥との子だ。

 彼としか性行為をしていないのだから当然である。


「どうしよう……」


 何はともあれ、まずは子どもの父親に相談するしかない。


 この間の阿鳥の浮気発覚の流れで、そのままフェードアウト気味に別れてしまったのだが、とにかく連絡を取ろうと考えた。

 そして、彼と通話したところ、


「はあ? 俺の子ども? 何言ってんだよ、お前!」


 阿鳥は怒りだした。


「危険な日なら、そう言えよ!」


 まるで妊娠したのが魅花の落ち度であるかのように、彼は怒り続けていた。


「っていうか、本当に俺のガキかよ? 他の男ともヤッてたんじゃねーの?」

「そ、そんなことするわけないでしょ! あたしはあんたとしかエッチしてない!」

「どうだか……その日会ったばかりの男と初体験するようなビッチだろ、お前。俺に隠れて色んな男とエッチしてたんじゃないのか? いや、きっとそうだ。なら、腹の中にいるのが俺のガキとは限らないじゃねーか!」


 阿鳥は一方的に怒鳴っている。


 魅花は言い返すことができなかった。

 妊娠したショックで気が弱っているのだ。


「ち、ちょっと、そんなこと――」

「とにかく、俺の子どもだっていう証拠出せよ。じゃないと、信じねーからな!」

「そんな! 逃げる気なの!?」

「うるせーな! 俺は知らないって言ってんだよ! もうかけてくるなよ、ヤリマンビッチが!」


 阿鳥は毒づくだけ毒づいて一方的に通話を切ってしまった。


「あっ、自分から切りやがって、クソが!」


 魅花は舌打ちする。


 すぐにリダイヤルしたが、阿鳥に無視されてしまった。

 二度、三度と掛け直すものの、やはり通話に出てくれない。


 ふつふつと怒りが込み上げてきた。


「マジで逃げる気かよ……ふざけんなよ、クソが……!」


 魅花はギリギリと奥歯を噛みしめた。




***

〇『いじめられっ子の俺が【殺人チート】で気に入らない奴らを次々に殺していく話。』

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