12 清白真白と剣ヶ峰春歌1(真白視点)

 真白は春歌とともにプールサイドに上がった。


 コータは離れた場所で泳いでいる。

 楽しげな彼を見つつ、真白は春歌に視線を移動した。


 はち切れんばかりの生気にあふれた美しい少女だ。

 しかも若い。


 コータも、彼女と同じ年齢なのだと思うと、普段は考えないようにしている彼との年齢差を意識してしまった。


(ああ、やっぱり十二歳差って大きいなぁ……)


 へこんでしまう。


「? どうかしましたか、真白さん」

「あ、えっと……」


 真白はなんとか気持ちを建て直そうとする。


 年齢差はどうしようもないのだ。

 いちいちへこんでいたらキリがない。


 と、そこである考えが浮かんだ。


「ねえ……まさかコータくんにキスしたのって、春歌ちゃん……じゃないよね?」

「えっ。コータくんとボクがキスっ? ないない! ないですよ~!」


 真白の問いに、春歌は驚いた顔をしていた。


 しまった、いきなり性急すぎた、と真白は反省する。

 春歌からすれば意味不明な質問だろう。


「あ……早とちりみたい。ごめんね」

「いえいえ~」


 言って、春歌は声を潜めて真白にたずねる。


「っていうか、コータくんって誰かとキスしたんですか?」

「っ……!」


 真白は言葉を失った。

 完全に藪蛇である。


「……ここだけの話にしてね」


 言って、真白はコータが女子生徒と事故キスをしてしまったという話をした。


「……ねえ、春歌ちゃんは心当たりある? コータくんのキスの相手」

「真白さん、目が怖いです」

「教えて」


 思わず身を乗り出し、春歌の手を強くつかんでしまった。


「いたたたた……」

「あ、ごめんなさい!」


 真白は慌てて手を離す。


「本当にごめんね……私、その、つい……」

「いえ、気になるのは当然ですよね」


 春歌が微笑む。


「心当たりはないんです、ごめんなさい。ボクに関しては、コータくんとはずっと幼なじみで友だちだから、恋愛感情とかは……えっと、ないです。ないないない」

「……そう」


 春歌の言葉に、真白はスッと目を細めた。


『恋愛感情はない』と言っているが、おそらく嘘だろう。

 表情に動揺がある。


 真白は恋愛経験こそコータを除けば皆無だが、他人の感情の機微が分からないわけではない。

 当然、三十年近い人生経験があるのだから。


 春歌は――嘘をついている。


 ただ、それは悪意のある嘘ではない。

 きっと真白に気を遣っているのだろう。


 おそらくは……春歌はコータに恋をしているか、そこまでいかなくても淡い想いくらいは抱いているのではないだろうか。


 胸の芯がチクリと傷んだ。

 嫉妬している。


(あーあ、私ってこんなに嫉妬深いんだ……)


 真白は内心でため息をついた。

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