6 魅花、体に異変を感じる(魅花視点)

「くそっ、馬鹿にしやがって!」


 魅花は毒づきながら自分の部屋に戻った。


 苛立ちが収まらなかった。

 怒りで熱くなりながら、心のどこかが冷静に算段していた。


(阿鳥はもう駄目だな……もっといい男探さないと)


 とはいえ、いきなり良い出会いがあるわけではない。


「あーあ、彼氏と別れたなんて周りに知られるの、やだなー。かっこわるい」


 ため息交じりに魅花はベッドに横になった。


「そうだ、とりあえずコータをつなぎの彼氏にしておくか」


 人のよさそうなコータなら、きっと簡単に騙せるだろう。


「処女の振りする作戦も考えたけど、もういいや。素直にお色気作戦にしよ」


 ニヤリと笑う。


 長期間の交際ではなかったものの、阿鳥を相手にそれなりの数のセックス経験を積んでいる。


 男を悦ばせるテクニックも、いくつも仕込まれた。


 初心そうなコータなら、きっとすぐに自分の虜になるはずである。


「ふふ、楽しみ♪ まあ、もっといい男が見つかったら、すぐポイ捨てだけどね」


 魅花は笑いながら、ベッドから降りた。


 ――そのときだった。


「っ……!? ん、ぐ……ぅえ……」


 突然、胃の中がひっくり返るような悪寒がした。


 吐き気だ。

 気分が悪くなり、魅花は大急ぎでトイレに向かう。




「はあ、はあ、はあ……」


 嘔吐してしまった。

 魅花はトイレから出た後、荒い息を整えた。


「ふうっ、なんか体の調子が悪いなー……」


 額に手を当てたところ、熱はなさそうだ。


 突然こみ上げた、この吐き気はなんだろう……?


「とりあえず、ちょっと休も。うー、まだ気持ち悪いよ……」


 ベッドに横になりながら、魅花は漠然とした不安を感じていた。


「まさか……ううん、そんなはずないよね……」


 もしかしたら、と頭の片隅に浮かびかけた考えを、すぐに追い払う。


 考えたくなかった。


 考えれば、不安に捕らわれてしまう。


 もし『それ』が事実なら、どうすればいいか分からなくなってしまう。


「休めばきっと治るはず……寝よ寝よ……」


 魅花は呪文のように『治るはず』とつぶやきながら、やがて眠りに落ちた。


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