5 魅花が阿鳥の浮気を知り、修羅場になる2(魅花視点)

 魅花は呆然と立ち尽くした。


 阿鳥が何を言ったのか、脳が理解を拒絶していた。


 だが、はっきり聞こえた。

 聞いてしまった。


『魅花のこと? あいつとは遊びだって』

『本命はお前だから』


 スマホを盗み見たときの、あのLIMEのメッセージを裏付ける内容だった。


 ショックよりも『やはり』という気持ちの方が強かった。


「えっ、人妻と付き合ってる? い、いや、それはちょっとした過ちっていうか……前に謝っただろ? 悪かったって。今はもう付き合ってないから。本当だって! まじまじ……」


 阿鳥は時折、相手から責められているのか、しどろもどろになる。


 断片的な会話の節々から、彼が何人もの女と遊んでいたのだということが、容易に推測できた。

 しかもその相手には既婚者も含まれているようだ。


(……最低)


 魅花はぎりっと奥歯を噛みしめた。


 怒りがふつふつと湧いてくる。

 もう、ここで聞いているだけなんて我慢できない――。


「ちょっと、阿鳥さん!」


 魅花はドアを開けた。


「うわっ、は、裸で来るなよ、魅花――ん、どうした?」


 驚いたような顔をした彼は、すぐに魅花の表情の険しさに気づいたようだ。


「全部聞いてたよ……」

「……あちゃー」


 阿鳥はハッとした後、苦笑をもらした。


「バレちまったか」

「あたしとのこと……まさか、全部遊びだったの?」


 自分はこんな男を『運命の相手』と信じ、体を許したのか?

 コータを裏切ってまで――。


「ねえ、答えてよっ!」


 絶叫した。


「……うるっせーな」


 阿鳥の口から出たのは謝罪でも言い訳でもなかった。


 正真正銘の――逆切れだ。


「お前程度の女を本命にするわけねーだろ。彼氏とエッチもしたことない、なんて純情ぶってるから、ちょっと遊んでやっただけだよ。俺のおかげで処女を卒業できたんだから感謝しろよ」

「ふっざけんじゃねーよ!」


 魅花は激怒した。


 阿鳥の居直る態度が許せなかった。


「なんだぁ、その態度は?」

「あんたみたいなチャラチャラした奴が、このあたしを振る? 舐めんじゃねーよ!」


 魅花が怒鳴る。


 その態度に阿鳥も気圧されたようだった。


「お、おい、そこまで怒るなって……まあ、お互い気持ちいい思いしたんだし、いいじゃねーか」

「あたしの初めて奪っておいて!」

「お前が処女を捨てたがってたんだろうが」

「あんたが運命の相手だと思ったから捧げたの!」

「ウンメーノアイテ? なんだよ、それ? お前、そんなこと思ってたの?」


 阿鳥が爆笑した。


「俺はヤりたかったらヤッただけだっての。お前だってそうだろ? 会うたびにヤッて、ヤるたびにアンアン喘いで……いい思いさせてやったろ? 気持ちいいところ、いっぱい開発してやったろ?」


 魅花の脳裏に彼と過ごした日々がよぎる。


 考えてみれば、セックスしている時間が大半だった。


 本当は――もっと恋人としての時間を大切にしたかった。

 今思えば――セックス以外の時間を、もっと過ごしたかった。


 だが、阿鳥が喜んでくれるから、と体を差し出し続けたのだ。


 もちろん、彼女自身も快楽は感じていたわけだが――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る