18 俺は赤羽根先輩に――


 赤羽根先輩にキスをされそうになった俺は、はっきりと拒絶した。


「駄目ですよ、赤羽根先輩」


 もう一度、きっぱりと告げる。

 アクシデントで――自分の意志とは無関係に唇を重ねてしまった、あのときとは違う。


 ここはちゃんと断るべきだ。


「……私じゃ、ダメ?」


 赤羽根先輩が悲しそうだった。


「……すみません」


 俺は首を左右に振った。


「いい加減な気持ちじゃないですからね。私、影咲希くんのことが――好きですから」

「っ……!」


 薄々そうかもしれない、と心の片隅では思っていた。


 いや、考えないようにしていたのかもしれない。


 だって、もし彼女が俺に好意を持っていたとしたら、俺はそれを断らなきゃいけない。


 赤羽根先輩を、拒絶しなきゃいけない。


 赤羽根先輩を……傷つけなきゃいけない。


「俺は」


 彼女をまっすぐに見つめた。


 傷つけたくはない。

 でも、ここははっきりと言わなきゃいけないところだ。


「付き合ってる人が、いるんです」


 俺は赤羽根先輩にそう言った。


「えっ……?」


 シン、と場が静まり返る。


 ざ……っ、雨の音がやけに遠く聞こえた。


 彼女の瞳が、信じられない、とばかりに見開かれていた。


「もしかして、春歌ちゃん……?」

「ち、違います」


 なんで、そこで春歌の名前が出てきたんだ。

 まあ、俺に一番身近な女の子だからか。


「じゃあ、霧子ちゃん?」

「それも違います」


 というか、北条と付き合うのはさすがにない。


 いや、魅力がないとか、そういう意味じゃなくて、俺と彼女じゃ絶対にそんな雰囲気になりそうにないからな。


「まさかまさか……ルルちゃん? 駄目ですよ、彼女は桐生くんと――」

「全部違います。というか、赤羽根先輩の知らない人です」


 俺は彼女を見つめた。


「遠縁で、子どものころから見知った女性なんです。この間、その人と久しぶりに再会して、そういう流れに……」

「親戚の女の子、ですか」


 女の子というか、俺より年上の女性だけれど。


「……そっか、彼女いるんだ」


 赤羽根先輩がぽつりとつぶやいた。


「もっと……早く知りたかったな。一人で舞い上がって……私、馬鹿みたい……」


 ざああっ、と。


 雨が、大降りになってきた。

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