17 俺は赤羽根先輩にアプローチされる


 ざーっという雨の音が聞こえる。


 小雨の中、俺は赤羽根先輩と一緒に帰宅路を歩いていた。


 彼女の方が学校から近いし、俺が送っていく格好だ。

 ……のはいいんだけど。


 なんか、妙に距離が近いぞ……?


 お互いの肩がほぼ触れ合っている。

 俺も赤羽根先輩も傘をさしているのに、彼女の方が器用に体を寄せて、肩を近づけているのだ。


 明らかに不自然なくらい密着してる――。


 あのアクシデントでキスしてしまった事件から一月ちょっと。

 キス直後は赤羽根先輩とぎこちない雰囲気になったり、妙な空気になったこともあったけれど、それ以降は元の関係に戻っていた。

 ……はずだ。


 けれど、今日の赤羽根先輩は何か違う。


 それを感じ取り、俺の緊張感は高まっていた。


「どうしました、影咲希くん?」


 赤羽根先輩がたずねた。


 視線を向けると、彼女の顔がすぐ近くにある。


 うっ、やっぱり距離が近い――。

 ごくりと息を飲んでしまう。


 彼女の唇が視界に入った。

 艶のある薄桃色の唇。


 アクシデントとはいえ、俺はこの唇に触れたんだよな……。


「もしかして……思い出してますか? この間のこと」


 赤羽根先輩が微笑んだ。

 どこか小悪魔めいた笑みに、俺はたじろいでしまう。


「え、えっと……」

「私は……影咲希くんと唇を重ねたことを毎日思い出しています」

「先輩、俺――」

「もちろん、嫌な思い出ではないですよ。それどころか、私にとっては大切な思い出です」


 先輩、ファーストキスだって言ってたもんな。

 あらためて罪悪感が胸の奥に湧き上がった。


「もし、影咲希くんにとっても嫌な思い出ではないなら――」


 赤羽根先輩が俺を見つめた。


「もう一度――してみませんか?」


 異国の地が混じっている、青い瞳。

 澄んだ色の瞳に、俺は吸いこまれそうな錯覚を感じた。


「も、もう一度って……」

「私が相手じゃ嫌ですか?」

「お、俺は――」

「嫌じゃないなら……キス、しましょう……」

「えっ……?」


 先輩が伸びをして、俺に顔を寄せてくる。


 俺の唇に先輩の唇が触れそうになる――。


「……駄目です」


 俺はすんでのところで身を引いて、赤羽根先輩のキスを避けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る