16 桐生計は天ヶ瀬ルルに――(桐生視点)

「僕、生徒会に入ってすぐに……ルル先輩のことを意識するようになって」


 桐生がルルを見つめる。


「好き……なんです」

「計……!?」


 ルルの瞳がさらに見開かれる。

 突然の告白に呆然としている様子だ。


「嫉妬したっていうのも、僕がルル先輩を好きだからです。その、不快な思いをさせてしまって……すみませんでした」

「……ううん、不快じゃないよ」


 ルルが首を左右に振った。


「計、私のことが好きだったんだ……」

「気づいてましたか?」

「うーん……もしかしたら、とは」


 言って、ルルがジト目になった。


「ううん、多分そうかな、って本当は思ってた。なんか……態度がちょっと……」

「うっ、バレてたんですか……」

「だって分かりやすいし。計って」


 言って、ルルが微笑んだ。


「あ、よかった。やっと笑ってくれた――」


 桐生も微笑む。


「あの」


 ルルを見つめる。


 言うぞ、と気持ちを高めた。


「ぼ、僕でよかったら付き合っていただけませんか……っ?」


 桐生は一息に言い切った。


 人生で初めての、恋の告白だった。


「計……!」


 ルルが目を大きく開いて、こちらを見つめている。


 いきなり告白されるとは思っていなかったのか、予想以上に驚いている。


 もっとも、桐生自身も少なからず自分自身の行動に驚いていた。


 今日、彼女に告白する予定などまったくなかった。

 だが、その場の流れで自分の気持ちを告げ、そのままの勢いで告白までしてしまった。


 よかったんだろうか、これで――。


 告白を終えたとたん、一気に不安感が押し寄せる。

 緊張感が高まり、心臓が痛いほどに鼓動を速めた。


「……ねえ、いいの?」


 ルルの表情には陰りがあった。


「さっきも言ったけど――私、処女じゃないよ。当時の彼氏――付き合っていたときは私も舞い上がっていて、相手の本性も見抜けずに……『この人が好きだ』って思って、体験して……でも、結局そいつは何股もかけるような男で……」

「……嫌な、思い出なんですね」

「……後悔してる。あんな奴に捧げずに、初めてはもっと別の人に取っておけばよかった」


 ルルが悲し気につぶやいた。


「僕……ぼ、僕なら、ルル先輩を悲しませたりしませんから……っ」


 桐生は一歩前に出た。

 ルルはそれでも悲しげに、


「……嬉しいけど、やっぱり気になるんでしょう?」


 本当は、気になる。


 あんな軽薄そうな奴とルルがキスをしたり、裸で抱き合ったり、男女のそういう行為をしたり……そんな過去が存在するだけで嫌だった。


 それも含めて天ヶ瀬ルルという人間なのだ、と理屈では分かっていても……やっぱり気になるのは事実だ。


 だけど……たぶん、それ以上にルルの方が『自分は初めてじゃない』ということを気にしている。

 いや、気に病んでいるのかもしれない。


 そんな桐生の推測を裏付けるように、ルルはますます悲しげな顔をして言った。


「気になるよね、やっぱり。私の前の相手を見たんだものね」

「……僕は、大丈夫です」


 桐生は顔を上げて、まっすぐに彼女を見つめた。


 きっと、これからもモヤモヤするだろう。

 そのモヤモヤは、もしかしたらずっと消えないかもしれない。

 それでも――。


「僕が、そ、そんな男のことなんて忘れさせてみせますっ……!」


 震える声で告げた。

 それは自分の想いであり、決意表明でもあった。


「……うん」


 ルルがはにかんだ笑みを浮かべる。


「忘れさせてよ、ね?」

「はいっ」

「じゃあ――計、今度の週末……デートしよっか?」


 ルルはそう言って、恥ずかしそうに微笑んだ。


 はにかんだ彼女の笑顔は、今まで見た中で一番可愛らしく感じて、計は胸がときめくのを感じていた。


 ルルの元彼のことでモヤモヤしていた気分が薄れ、吹き飛んでいくようだ。


「はい、ぜひっ!」


 桐生は満面の笑みを浮かべて答えた。

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