15 桐生計は天ヶ瀬ルルに片思いしている8(桐生視点)

 ――沈黙。


 桐生とルルは一言も話すことなく、帰宅路を歩いていた。


 ざーっという雨の音がやけに大きく聞こえる。

 何か話さなきゃ……と思うのに、言葉が出てこない。


 この状況を打開するための言葉を脳内で必死に探るが、何も出てこない。


 このままじゃ駄目だ……駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。


 気持ちばかりが焦り、結局、桐生は何もできなかった。


 そうこうしているうちに、ルルの自宅の前まで来た。

 天ヶ瀬家は両親と社会人の姉、そしてルルの四人家族である。


「じゃあ、私はここで……」


 ルルは力のない声で手を振り、家に向かっていく。


 駄目だ。


 桐生は心の中で叫ぶ。


 駄目だ!


 このまま別れちゃ駄目だ――。


「あ、待って!」


 桐生は思わず追いかけていた。

 それなりの体験をしてきたルルと違って、自分の恋愛経験値はゼロ。


 だけど、そんなことは関係ない。


「もう少し……もう少しだけ、話せませんか?」




 桐生とルルは近くの公園に移動した。


 ベンチに並んで腰かける。


 肩口に、彼女の肩が触れていた。

 思ったよりか細い肩は、わずかに震えている。


「さっきは嫌な思いをさせて……すみませんでした」


 桐生が頭を下げた。


「計……?」


 ルルがこちらを見つめている。


「僕、嫉妬したんです」


 ストレートに告げる。


 心臓の鼓動が急に早まった。

 こんなことを言ったら、『あなたに特別な感情を抱いています』と半ば告白したようなものだ。


「どういう……意味?」


 ルルが眉を寄せる。

 桐生は身を乗り出した。


「ルル先輩と他の男が……って考えたら、それだけで嫉妬してしまったんです。過去のことだと分かっていても、やっぱり……妬けてしまうんです」

「計……」


 ルルの瞳が見開かれている。


 ここまで来たら、もう突っ切るしかない。


 本当はこんな段階で告白なんてするつもりじゃなかった。

 少しずつ距離を詰めていって、いずれ……という漠然とした考えしかなかった。


 だけど、このまま距離が離れてしまうくらいなら――。


 勇気を持って踏み出すしかない。


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