14 桐生計は天ヶ瀬ルルに片思いしている7(桐生視点)

「じゃあ、今日はそろそろおしまいにしましょうか」


 蜜が言って、その日の生徒会の仕事は終わりになった。


「雨、降ってるな……」

「……影咲希くん、一緒に帰りましょう」


 蜜がコータに耳打ちする。


「……ああ、二人っきりに」

「……ええ」


 などとささやき合っていた。


 桐生への援護射撃なのだろう。


(ありがとう、先輩たち)


 彼は心の中で深く感謝した。

 それからルルに向き直り、


「僕らも帰りませんか。その……一緒に」

「ん」


 誘ってみると、彼女は小さくうなずいた。




 ルルは傘を忘れたため、桐生の傘に二人で入って歩いていく。


「えへへ、これなら二人とも濡れませんね」

「ん。計の肩がちょっと濡れてる」

「ルル先輩が濡れなければ、それでいいです」

「濡れる濡れる、ってちょっとエロい」


 ルルがぽつりとつぶやいた。


「ルル先輩ってそういう感じのことを言うんですね……」


 驚いて彼女を見つめる桐生。


「あ……引いた?」


 ルルがハッと口元を押さえた。


「つい、言ってしまった」

「あ、いえ、全然……意外だっただけです」


 言いながら、頬が火照っているのを感じていた。


「私、素はけっこうエッチかもしれない」


 ルルがつぶやく。


「そうなんですか?」

「むしろ興味津々かも」

「そうなんですか……!?」

「桐生は?」

「僕も……その、割と興味津々で」

「じゃあ、桐生もエッチ」

「です」

「激烈欲情男」

「いや、そこまでエッチじゃないです」

「じゃあ、やっぱり純情」

「純情ってほどでも……」


 などと他愛もない会話をしながら、相合傘で歩いていく。

 と、


「私は」


 ルルがふいに桐生を見て、言った。


「あんまり純情じゃないかも……一人だけど、経験もあるし」

「やっぱり……初めてじゃないんだ」


 計は思わずつぶやいてしまった。


「えっ……」

「あ……」


 つぶやいた後で、失言だったことに気づく。

 明らかにルルはショックを受けた顔だった。


「……う、うん、処女じゃない。エッチしたことあるよ……」


 ルルが計を見つめる。


「す、すみません、あの、そんなつもりじゃ……っ」


 桐生はパニックになった。

 正直言うと――やはり、彼女が他の男とセックスの経験がある、というのは嫌だった。


 自分が初めての男になりたかった。


 まだ付き合ってもいないのに。

 まだ、ルルの気持ちを確かめてもいないのに。


 厚かましい考えだとは分かっていた。

 ルルにはルルの、これまでの人生があるのだから、こんな思いを押し付けてはいけない、と分かっていた。


 だが――つい、口をついて出てしまった。

 自分は、思っているより独占欲が強かったようだ。


「え、えっと、僕、経験ないから、そういう人が大人に見えるっていうか、そういう意味で、あの……」


 必死で取り繕う。


 フォローできただろうか。

 自分の独占欲の強さが――『醜さ』として、相手に受け取られていないだろうか。


 桐生は不安でたまらなかった。


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