13 生徒会で蜜から誘われる

 ――僕と一緒に帰りませんかっ!


 俺が生徒会室の扉を開けたのは、ちょうど桐生がそんな言葉を発したタイミングだった。


「あ……悪い」


 俺はばつの悪い思いで立ち尽くした。


 ちょうど桐生と天ヶ瀬先輩が二人っきりだったみたいだ。


 しかも今のセリフって明らかに、二人で一緒に帰ろうと桐生が天ヶ瀬先輩を誘っていたわけで。


 ……絶対邪魔したよな、俺。


 ああ、やってしまった。

「ど、どうも……」

「ど、どうも……」


 俺と桐生はなんとなく気まずい空気で目を合わせた。


 そして天ヶ瀬先輩は、


「あ、え、影咲希、い、今の聞いてた……?」


 珍しく目が泳いでいた。


 うわー、本当に最悪のタイミングだったのかな。

 でも、これだけ動揺するってことは、裏を返せば桐生との仲はそれなりに進展してるってことかもしれないな。

 だとすれば、めでたい。


「聞いてないです全然まったくちっとも」

「本当に?」

「聞いてないです聞いてないです」

「じー」


 天ヶ瀬先輩がめちゃくちゃ見つめてくる。


 あいかわらず目が泳いでるし。

 すごい動揺してるなぁ。


 これは――けっこう脈ありかもしれないぞ、桐生。


 よかったな。




 俺は桐生の隣に座り、自分に割り当てられた作業を始める。


「あ、今日は北条さんは来られないそうです。用事があるそうで」


 桐生が俺に言った。


「そうなんだ。赤羽根先輩は?」

「それは聞いてないです。北条さんは僕の隣のクラスなので、昼休みに『今日は生徒会には行けない』って伝えに来ましたけど」


 なるほど。


 しばらく俺たち三人で作業をしていると、


「ごきげんよう、みなさん」


 赤羽根先輩がやって来た。

 すでに時間は五時近い。


「赤羽根先輩、今日は遅かったですね」

「ええ、ちょっと進路のことで先生と相談していたので……」

「進路……」


 確かに彼女は三年生だもんな。


 進路、かぁ。

 俺にとっては来年向き合うべき問題だ。


 今までは漠然と自分の成績に見合った大学に行くのかなぁ、くらいに考えていたけれど――。

 真白さんのことを考えると、就職もありかもしれない、と思っている。


 早く社会人になって、真白さんに釣り合う男になりたい。

 一定の収入を得て、彼女と結婚――は早いか?


 いや、俺にとっては早くても、彼女にとっては違う。

 もうすぐ三十歳……焦る気持ちだってあるかもしれない。


 焦っている可能性の方が高いかもしれない。


「どうかしましたか、影咲希くん?」


 赤羽根先輩が俺を見つめた。


「あ、いや、俺も進路のことを考えちゃって」

「ふふ、まだもう少し先ですよ」


 微笑む赤羽根先輩。

 それから俺に顔を近づけ。


「……今日、一緒に帰りませんか?」


 耳打ちされた。


「えっ」

「二人だけでゆっくり話したいんです」

「え、ええ……」


 一体、なんだろう――。


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