12 桐生計は天ヶ瀬ルルに片思いしている6(桐生視点)
放課後――。
「こ、こんにちは、ルル先輩」
「こんにちは、計」
桐生はルルと挨拶を交わした。
今日も生徒会室で二人っきりだ。
そのうち他のメンバーが来るだろうが、それまでの間、彼女と二人だけの空間を楽しみたかった。
もちろん、蜜たちが来て、みんなでワイワイ話すのも、とても楽しい時間なのだが――。
「えっと……」
桐生は席に座る前に立ち止まった。
生徒会室は机をコの字に配置している。
ルルはその右端に座っていた。
彼女の隣に座りたいのだが、『隣に座っても嫌がられないだろうか?』などと、無駄に不安になってしまった。
(ああ、もう! 何やってんだ、僕は!)
自分でも最近の自分がふがいないと思う。
ルルと距離を縮められた、という自信を持ったものの、それに比例するように不安度も上がってしまっている。
『ルルの隣に座る』というそれだけのことに勇気を振り絞らないといけないほどに――。
「どうしたの? 座ったら?」
ルルが不思議そうにこちらを見た。
「は、はい……」
桐生はうなずき、ルルから一つ間を空けた席に座ろうとする。
「? 隣でいいでしょ」
ルルに言われた。
「あ、は、はい……っ」
ルルから促されたなら大丈夫だろう。
桐生は嬉々として彼女の隣に座る。
すぐ側に彼女の息遣いを感じる。
ドキドキしてきた。
と、
「今日は夕方から雨」
ルルが唐突に言った。
「えっ」
「計、ちゃんと傘持ってきた?」
ルルがたずねる。
「天気の話題。好きみたいだから」
「あ……」
桐生はハッと気づいて、苦笑いを浮かべた。
別に天気の話題が好きなわけではない。
単に話のとっかかりとして無難な話題を選んでいただけだ。
ルルに話しかけるだけでも緊張するせいだった。
「傘、ちゃんと持ってきてますよ。ルル先輩は?」
「私ももちろん――」
言いかけて、彼女の表情が固まった。
「……忘れてた」
「えっ、そうなんです?」
「初歩的なミス……不覚……ふう」
ため息をつくルル。
彼女でもこういうミスをするのか、とちょっと新鮮な思いだった。
「じ、じゃあ、僕の傘を――」
桐生は思わず身を乗り出した。
「ん?」
振り返ったルルと目が合う。
綺麗だ、と思った。
生徒会長の赤羽根蜜のような人目を引く美人というわけではないけれど、知的で、意志が強そうなその顔立ちは、桐生にとってとても魅力的だった。
「え、えっと、傘を……その……」
また緊張感がこみ上げる。
いや、今こそ勇気を振り絞るときだ。
いつまでもヘタレていては駄目だ。
「僕と一緒に帰りませんかっ!」
思わず叫んだとたん、扉が開いて他のメンバーが入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます