11 桐生計は天ヶ瀬ルルに片思いしている5(桐生視点)
昼休みになり、
ベンチには弁当や購買部で買ったパンなどを食べている生徒の姿をちらほらと見かける。
桐生はその一人一人に目を凝らし――、
「いた……!」
その中に一人の女子生徒を発見した。
艶やかな黒髪に眼鏡、知的な雰囲気を漂わせる美少女だ。
彼の意中の少女であり、同じ生徒会のメンバーでもある
二つ年上の彼女がときどき校庭で昼食を取っていることに気づいたのは、最近だった。
以来、桐生も昼になると校庭に出て彼女を探すようになった。
偶然を装って、ルルと話すためにだ。
もちろん、放課後になれば生徒会で会えるのだが、それだけでは足りない。
生徒会には他のメンバーもいるため、公然と彼女だけに親密な態度を取るのはあからさますぎる。
その点、昼休みなら彼女と二人きりでゆっくりと話せるのだ。
「ルル先輩――」
桐生は息を切らして走っていった。
「ん、計?」
ルルが顔を上げる。
少し前までは『天ヶ瀬先輩』『桐生』と名字で呼び合っていたのが、こうして名前で呼び合えるようになったのも、最近のことだった。
「え、えっと、よかったら一緒にご飯食べませんか……っ?」
緊張気味に誘う。
もっと落ち着かなきゃと思うのだが、彼女の前だとどうしてもこうなってしまう。
緊張と、高揚感と、恋心と――それらがないまぜになって、桐生から落ち着きを完全に奪ってしまう。
「ん。いいよ……ふう」
いつものように低血圧っぽいため息をつくルル。
そのため息ですら、『もしかして、僕と一緒に食べるのを嫌がってる!?』などと不安を感じてしまうのは、恋心のなせることだろうか。
最近は特に、ルルのちょっとした言葉や動作にもいちいちその意味を求め、過剰に悩んでしまうほどだった。
以前よりも、恋の気持ちが加速しているということなのだろう。
日一日ごとに、よりルルのことが好きになっていく――。
それからの十数分、桐生は舞い上がりっぱなしだった。
ルルと二人っきりで話せる状況が嬉しくて、ずっとハイテンションだった。
が、昼休みは長いようで短い。
「私、そろそろ行かないと」
「えっ……」
ルルの言葉に桐生はハッとなった。
そろそろ午後の授業のために教室に戻らなければならない時間だった。
「この世の終わりみたいな顔してる」
「だって……」
「もしかして、もう少し私と話したかったとか?」
「い、いや、それはその……っ」
桐生は顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そうです……っ!」
勇気を振り絞って正直に言った。
「ん、素直でよろしい」
ルルは無表情に自分の隣をぽんぽんと叩いた。
「ルル先輩?」
「後もうちょっとここにいる」
言って、少しはにかんで、
「……本当は、私も計ともっと話したかったから」
聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの小さな声でつぶやいた。
――結局、午後の授業に遅刻寸前になりながら、桐生もルルも教室に戻った。
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