5 魅花がチラチラしてくるが、俺には特に興味がない


「とにかく、赤羽根先輩とケンカするのはやめてくれ」

「別に、ケンカしたくてしたわけじゃないよ。あたしはコータと話したかっただけだもん。それをあの女が邪魔するから……」

「じゃあ、こうして俺と話してるんだから、もういいだろ」

「んー、あの女、気に食わない」


 魅花がブツブツ言っている。


「で、俺に用ってなんだよ?」


 と、切り出す俺。


「うん、実はね――」


 魅花が俺にすり寄ってきた。


 鼻先に漂う香り……こいつ、前より香水きつくなったな。

 よく見たら、メイクが派手になってる……?


 たぶん、新しい彼氏――須山阿鳥の影響だろう。


「あたしさ、彼とケンカしちゃって」


 魅花がポツリと言った。


「もしかしたら別れるかも」

「えっ」


 魅花が言う『彼』というのは、当然須山のことだろう。


「言っておくけど、あたしモテるからね。阿鳥さんの友だちからもひそかに声かけられたことあるし。まあ、明らかに体目当てっぽかったから断ったけど」


 魅花が続ける。


「何が言いたいんだ……?」

「ボヤボヤしてると、あたしが今の彼と別れた後に、すぐに別の男に取られるかも、ってことよ。分かった、コータ?」

「いや、分からん」

「あたしが他の男に体を奪われちゃうかもよ?」

「そんな軽々しくエッチしない方がいいぞ」

「唇くらいは奪われちゃうかも」

「いや、キスも軽々しくしないほうが」


 言いながら、つい赤羽根先輩のことを思い出してしまった。

 彼女との、あのアクシデントを……。


「あ、キスでも嫌なんだ? ま、そうよね。あたしが他の男とキスしてる場面なんて想像したくないよね」


 ……想像も何も、俺はお前にフラれた日に、新しい彼氏とお前がキスする場面を目撃してるんだが。


「うんうん、コータはいい感じにあたしを意識してるみたいだね。よろしい。前の電話のそっけない答えは忘れてあげる」


 なぜか偉そうに腕組みをしている魅花。


「あたしが阿鳥さんと別れたら、すぐ連絡するから! っていうか、別れそうになった時点で連絡するから! ちゃんと心の準備しておきなさいよ!」

「いや、だから――」

「以上! あたしからの業務連絡でした!」


 言うなり、魅花は去っていった。


 業務連絡ってなんだよ……?

 あいつの用事って、これだったのか?


 意味が分からん……と、俺はその場に立ち尽くした。

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