4 魅花、通りがかった男子たちにヒソヒソ噂される


「は、はあ? あたしだって大人だし! やることやってるし!」


 魅花は鼻息を荒くした。


 きっと、『すでにセックスを経験している』っていうのが、彼女にとってのステータスみたいになってるんだろうな。


 俺も真白さんとそういう行為を経験したけど、別にステータスだとは思わない。


「コータは童貞でしょ? あたしが一から教えてあげよっか? ふふん」

「性体験がそんなに自慢なのか」

「せ、せーたいけん? ああ、エッチのこと? 難しい言い方するとわかんないよ!」

「性体験は別に難しい言い回しじゃないだろ」


 というか、他の生徒がいつ通るかも分からない場所で、エッチがどうこうなんてあまり大きい声で話さないでほしい。

 案の定、


「なんか言い合いしてない?」

「あれって五組の進藤じゃない?」

「ああ、なんかヤリマンって噂だよなー」

「見た目、けっこう派手だしな。俺も頼めばヤらせてもらえるかなー」

「お前、あんなのがタイプなの?」


 ――なんて男子生徒の一団が話す声が聞こえてきた。


「むむむ……あたしのこと、馬鹿にされてた気がする……っ」


 魅花が怒りの表情だ。


「あたしはヤリマンじゃなくて大人の女だっての! 別に誰とでもヤるわけじゃないからねっ」

「魅花、もういいか? どう見ても、お前が赤羽根先輩に突っかかってるだけだよ。彼女だって迷惑している」


 俺は魅花にはっきり言った。


 迷惑している、なんて言葉にしたくなかったけれど、仕方がない。


「もう退いてくれ、魅花」

「その女に肩入れするんだ? むかつく! コータはあたしの味方じゃないわけ!?」


 魅花が俺に近づいてきた。


 上目遣いになり、さりげなく――いや、あからさまに俺に胸の谷間を見せつけてきた。


 ……まあ、ちょっとだけドキッとした。

 けっこう胸あるからな、魅花は。


 といっても、もちろん彼女になびくようなことはない。

 絶対にありえない。


 魅花との恋はもう完全に終わったんだからな。


「魅花、とにかく落ち着け」

「でも、あたしは」

「俺と二人で話そう」


 赤羽根先輩と引き離すために、俺は魅花と一緒に歩いていく――。


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