19 魅花、コータと別れたことを後悔し始める2(魅花視点)
「よし、思い切って連絡しよう」
魅花は大きく深呼吸した。
緊張しているのが分かった。
なぜだろう?
相手は以前に付き合っていた彼氏なのだ。
しかも、こっちから振ってやったのだから、向こうはまだ自分に未練を持っているかもしれない。
いや、きっと未練があるだろう。
ルックスにはそれなりに自信がある。
阿鳥に抱かれてからは、体にも自信を持つようになった。
「あたしなら大概の男は簡単に蕩かせるんだからっ。コータだって例外じゃない……っ!」
魅花は自分自身にそう言い聞かせた。
「あ、そうだ、いざとなれば体をちらつかせてやってもいいよね。一回くらいなら……特別にエッチさせてあげてもいいか。うん、一回くらいならね」
それできっと彼は自分の虜になるだろう。
だが、コータは真面目な性格だし、一度寝た後は、あえて『お預け』にして、自分を求めずにはいられないように仕向けるのもアリだ。
(――なーんて、ね。あたしって本当、恋愛上級者よね。コータなんてチョロいチョロい)
内心でほくそ笑みつつ、魅花はコータに連絡した。
「……魅花?」
驚いたようなコータの声が聞こえる。
「お久しぶり。また話せて嬉しい♡」
魅花は甘ったるい声で言った。
「ねえ、今度の土曜日、一緒に遊びに行かない?」
「えっ、急にどうしたんだ?」
「ちょうど暇だし、いいじゃない。前は一緒に遊んでたでしょ」
「それは……前は付き合ってたからだろ」
「また、一緒に遊ぼうよ」
「そう言われても……」
「ねえ、いいでしょ」
このまま押せば、落ちる……!
魅花は勢いこんで言った。
すでにあの生徒会長の蜜とそれなりの仲なのかと心配したが、魅花の連絡一つで揺れ動くようなら大した関係ではないのだろう。
あるいは――。
(なんだかんだ言って、あたしのことが忘れられないんだね、コータ。あんな女じゃ、コータの気持ちを独占できないってことだ)
勝った、と内心で爽快感を得る。
「ごめん……俺、もう付き合ってる人がいるから」
コータはきっぱりと告げた。
「あー……そうだよね」
きっと蜜のことだろう。
「いいじゃない。ちょっと遊ぶだけだから、ね?」
魅花は食い下がった。
「生徒会長さんに悪いと思ってる? 友だち同士として遊ぶだけなら――」「生徒会長? 付き合ってるっていうのは、赤羽根先輩じゃない、別の人だよ」
コータが言った。
「……………………………………はい?」
魅花は混乱した。
「とにかく、俺は今、他の女の子と二人っきりで遊ぶなんてできないし、考えられない。せっかく連絡くれたのに、ごめん」
コータの返事には取り付く島もなかった。
体をちらつかせることすらできず、向こうから通話を終わらせてしまった。
コータとの短い会話が終わり、魅花はスマホを握ったまま呆然とする。
「嘘、もしかして、あたし……振られた?」
ふつふつと怒りが湧いてきた。
あり得ない。
このあたしを、あんな冴えない男が振るなど。
逆でなくてはならない。
自分は男をより取り見取りだが、相手は自分にどこまでもしがみつき、未練を抱き続けなくてはならない。
なのに、なぜ――。
「ふ、ふっざけんじゃねーよ! ザコ童貞の分際で、このあたしの誘いを断りやがってぇっ! くそがっ! くそがっ! くっっそがぁぁぁぁぁぁっ!」
思わず乱暴な言葉遣いになって、魅花は叫んでいた。
プライドが、ズタズタだった。
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次回から第5章になります。ここまで読んでいただきありがとうございました!
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