18 魅花、コータと別れたことを後悔し始める1(魅花視点)


「もうっ、今日はデートの約束したのに! ドタキャンするなんて最低っ!」


 魅花は怒り心頭だった。


 週末になり、楽しみにしていたデートを、阿鳥が一方的にキャンセルしてきたのだ。


 なんでも、この日は友だちと遊びに行く約束だったのをすっかり忘れていたんだとか。


 自分は阿鳥の『彼女』なのだ。

 それを友だちとの約束があるから、とデートを断られるなど、信じられなかった。


 もっと魅花のことを大切にしてほしかった。


「早まったかなぁ……はあ」


 深々とため息をついた。


 なんだか急に気持ちが覚めたような気分だ。


 本当に阿鳥を恋人に選んで正しかったのか?

 ここ最近、頭の中にその疑問がよく浮かぶようになった。


 彼との交際に疑問符が浮かび始めていた。

 初めて結ばれたときは、運命の人だとさえ思ったのに――。


「あんな奴に初めてをあげて損した……もうっ」


 だんだん腹が立ってきた。


 とはいえ、悔やんだところで、一度失った処女が戻ってくるわけではない。


「やっぱり……どうせならコータに捧げるべきだったのかなぁ」


 だんだん分からなくなってきた。


 付き合っていた当時、なかなか自分に手を出してこないコータのことを臆病だと内心で馬鹿にしていた。


 だから、出会って早々に自分を求めてきた阿鳥のことを好ましく思った。

 情熱的だと思った。


 だが――本当は全部勘違いだったのではないだろうか?


 阿鳥から感じた情熱は、ただの『性欲』でしかなくて。

 コータから感じた臆病さは、本当は魅花に対して『誠実』だった証なのかもしれなくて。


「でも、もう引き返せないのよ……っ」


 魅花は自暴自棄気味に叫んだ。


 今さらコータとまた付き合うことなどできるはずがない。

 他の男と何度もセックスした元カノなど、コータだって嫌だろう。


「あ、でも、阿鳥さんとのことを黙ってる、って手もあるか。キスまでの関係で、体は許してないよーって嘘つくとかね」


 彼女の口元に笑みが浮かぶ。


 どうせ、コータは童貞だ。

 自分がちょっと演技をすれば騙せるだろう。


「あたし、本当はまだ処女なの。初めてはコータに捧げたいの――なんて、ね。ふふふ、あいつ絶対騙されるよね……ふふふふ」


 清純な振りをして、元鞘を狙うのも『アリ』かもしれない。


 まあ、あくまでも選択肢の一つだ。


 阿鳥との仲が駄目になったときの保険程度である。


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