17 アラサー清楚お姉さんの心に残る、黒い――(真白視点)


「あー……気持ちよかった……」


 真白は小さくつぶやいた。


 両脚の奥に強烈な摩擦感や疼き、さっきまでコータの肉体の一部が入っていた異物感などが残留している。


 半日くらい彼とむつみ合い、夕食を挟んで、また体を求め合った。

 今日は一日中セックスばかりしていた気がする。


 今はもう夜の十時だ。


 コータは静かな寝息を立てて眠っていた。


 彼女の方は気持ちが高ぶって、しばらく眠れそうになかった。


 コータから『アクシデントで別の女の子とキスをしてしまった』と告白された。


 正直、ショックだった。

 正直、激しい怒りがこみ上げた。


 だけど、それをあらわにしてもコータは悲しむだけだろう。


 そして、コータと自分の距離が離れるだけだ。


 真白にとっては少なくない覚悟を背負っている恋だった。


 年齢的に、どうしても『先』のことを考えてしまう。


 まだ若いコータには、これから先もいくつもの恋愛のチャンスがあるだろう。

 だけど、自分にはいくつあるか分からない。


 いや、これが最初で最後かもしれない。


 一時の感情でその恋が壊れるようなリスクを負いたくなかった。


 だから真白は、自分でも驚くほどの冷静さで、彼に対して寛容な自分を演じてみせた。


 本当は――苦しいし、悔しいし、悲しいし、腹立たしい。


「どうして……どうして、私以外の女の子と、キスなんて……」


 事故だというのは分かっている。


 コータが自発的にそんなことをするとは思えない。


 彼のことを信頼している。


 だからこそ、苦しかった。

 コータの唇を奪ったという女子生徒の姿を幻視する。


 顔も知らない、その少女を。


(憎い……)


 ほとんど本能的に沸き上がった黒い思いを、真白は慌てて打ち消した。


(ち、違う違う。私は、コータくんと……楽しく過ごして……)


 怒りや嫉妬じゃなく、彼との恋を――大切にしなければならない。


 心静かに。

 穏やかに。


 ただ彼との関係だけを見つめて。


 真白はいきなり布団から出ると、まっすぐにバスルームに駆けこんだ。


「う、ぁぁぁぁ……ぁぁぁぁ……ぁあああ……」


 嗚咽がこぼれる。


 駄目だ。


 我慢できない。


 悔しい。


 苦しい。


 ぼうっと目の前に浮かんだ、顔も名前も知らない女を――。

 コータの唇を奪った女の幻を、真白は思いっきり殴りつけた。


(やっぱり憎い――憎いよ……!)

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