13 口づけの代償は……(蜜視点)


 赤羽根蜜は呆然としたままシャワーを浴びていた。

 一糸まとわぬ美しい裸身に水滴が伝っていく。


 影咲希くんの唇を奪ってしまった――。


 蜜はひどい罪悪感に囚われていた。


 コータの唇を奪ってしまったことについて。


 相手の気持ちを考えず、自分の気持ちだけを強引に押し付けてしまった。


 取り返しのつかないことをしてしまった。


 あのとき――暴走車から自分を守るために、コータは彼女を抱きしめた。

 顔が近づいた瞬間、彼女の中にある考えが浮かんだ。


 このまま事故を装ってキスできるのでは、と?


 コータは以前には彼女がいたそうだが、今は別れたようだ。


 フリーだから大丈夫。

 片思いしている男の子にファーストキスを捧げるチャンス――。


 心の中の悪魔がそう囁いた。


 そして蜜は……その悪魔の誘惑に負けてしまった。


 初めてのキスは、正直何がなんだか分からなかった。

 相手が意図した行動ではなく、あくまでもアクシデントだっただろうか。


 コータは驚いたように目を見開いていたし、蜜の方は不安や焦りが大きかった。


 彼と唇を触れ合わせた喜びはあったものの、本当にいいんだろうかという気持ちが邪魔をして、唇を重ねた甘い感触に浸ることができなかった。


(せっかくのファーストキスだったのに……相手が影咲希くんだったのに……結局、中途半端に終わってしまった……)


 残ったのは、罪悪感と後悔だけだった。


「やっぱり……謝ろう。本当のことを言わなきゃ」


 蜜は深いため息をもらした。


「言わなきゃ……明日こそ、影咲希くんに」


 土下座でもなんでもして謝ろう。


 もちろん、謝ったところで彼とキスした事実は消えない。

 彼に今、付き合っている女性がいないらしいことが唯一の慰めか。


「いえ、慰めになんてならない。私が一方的に悪い……こんなの、絶対に許されることじゃない……」


 蜜は綺麗な赤色の髪の毛をかきむしりながら、苦しみにうめいた。


 うめき続けた。


 消えてしまいたい、とさえ思った。


「どうして、私……あんなこと……」


 叶うなら時間が戻ってほしい。

 もう一度、やり直したい。


「影咲希くん……」


 蜜はそっと自分の唇に触れる。


 生まれて初めて異性に触れたそこは、今も熱く火照っている――。




***

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