12 消えない感触


 帰り道、俺は呆然としたままだった。


 どうしよう。

 真白さんになんて言えばいいんだ。


 いや、言うべきなんだろうか?


 言えば、きっと彼女を傷つける。

 言わなければ――誰も傷つかない。


 でも、真白さんに秘密を作るなんて絶対に嫌だ。


 やっぱり、ちゃんと打ち明けるか。

 それとも――。


 俺が黙っていれば……苦しむのは俺だけなのに。

 でも、それはやっぱり卑怯なことだ。


 いや、卑怯なこと……なのか?

 彼女の気持ちを守ることにはつながる。


 ああ、分からない。

 どっちが正解なんだ。

 誰か教えてくれ。


 俺はいくら苦しんでもいい。

 当然の報いだ。


 けど、真白さんが苦しむのだけは嫌だ。

 絶対に嫌だ……。


 頭の中がぐちゃぐちゃになり、『正解』が一向に出てこない――。


 と、そのとき、真白さんからLIMEが届いた。


「こんなときに……」


 いつもなら嬉しいメッセージなのに。

 今の俺には、なんだか気持ちが重い。


 それでも俺はスマホを操作して、届いたメッセージを見てみる。


『今、仕事の休憩中。残業が多い~』


 いつも通りの真白さんだ。

 だけど、俺の精神状態はいつも通りから程遠かった。


 どうしよう。

 あとでメッセージを返すか……。


 逃げたい。

 逃げたい。


 全部なかったことにして、真白さんにはいっさい秘密にして。


 ……でも、やっぱり駄目だ。


 起こったことは事実なんだから。

 全部伝えた上で、真白さんに判断してもらうんだ。


『俺、赤羽根先輩と事故で……キスしたんだ』


 メッセージを書き上げ、送信――。

 指が、止まった。


「……やっぱり、ちゃんと会って伝えたほうがいいよな」


 文字だけだと軽い気持ちだと思われるかもしれない。


 週末のデートのときに言おう。


 言って、謝って――。

 きっと真白さんは傷つくだろうな。


「ああ、どうして避けられなかったんだろう……」


 後悔の念が後から後から湧き上がる。


 もう少し素早く反応できていれば――。

 自分に腹が立つ。


 俺は真白さんといつも通りの他愛のないやり取りを何度かした。

 気持ちは平静ではいられなかったけど、なんとか……できたと思う。

 そして、


『そろそろ仕事に戻らなきゃ……早くコータくんに会いたいな。ちゅっ』


 真白さんから来た最後のメッセージはキスを表すものだった。


「……くそぉっ」


 また罪悪感がこみ上げ、俺は近くにあった電柱に頭を叩きつけてしまった。



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