14 週末、真白さんに事故キスの件を報告する

 週末はあいにくの雨だった。


「おはよう、コータくんっ」


 早朝、真白さんがニコニコ笑顔で俺のアパートを訪れた。


 すごく嬉しそうだ。


 長い黒髪に穏やかな笑顔、白い肌。

 すらりとしていながら丸みを帯びた艶めいた体型。


 子どものころから見知った『親戚のお姉さん』で、話していて楽しくて、癒されて――。


 一日ごとに彼女への愛しさが募っていく――俺の、恋人。


 ああ、考えただけで、また罪悪感が増していく。


「……どうしたの、コータくん?」


 真白さんが心配そうに俺を見つめた。


「顔色悪いよ? 熱でもあるの?」


 言って、顔を近づけてくる。

 ぴとっと額と額がくっついた。


「ちょっと熱い……?」

「いや、それは真白さんが超至近距離にいるからドキドキしてるだけだと思う」

「あ、ちゅーされるとか思った? ねえ、思った?」


 真白さんが悪戯っぽく笑う。


「いや、俺は……んっ?」

「ちゅぅ」


 不意打ちでキスされてしまった。

 また、ドキドキが増していく。


「えへへ……やっぱり、ちょっと恥ずかしいね」


 軽く唇を合わせた後、真白さんが顔を離した。


「……コータくん?」


 それから、ふたたび表情を引き締める。


「やっぱり、様子が変だよ? いきなりキスされたの、嫌だった?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「コータくんと一緒にいると『好き』の気持ちが止まらなくなって……つい。ごめんね」

「ち、違うんだ!」


 俺は思わず声を上げた。


「俺、真白さんに謝らなきゃいけないことがあるんだ」


 その場に正座して彼女を見上げた。


「謝らなきゃいけないこと?」


 きょとんと首を傾げ、真白さんは俺と正対するように正座した。

 視線の高さが同じになり、見つめ合う格好になった。


 言わなきゃ……。


 思いながらも、喉がからからに乾いたようになって言葉が出てこない。

 気持ちだけが空回りしているのが分かる。


 どう切り出せばいいんだ――。


「あ、もしかして」


 真白さんが何かに気づいたような顔をする。


「私、分かっちゃった」

「ぎくり」

「私がやってるゲームのキャラ、勝手に経験値稼ぎしちゃったでしょ」

「なんでやねん」


 思わずツッコむ俺。


「真白さん、ゲームとかやるんだ」

「仕事の合間に、ときどきね……課金はほとんどしてないけどね」

「ちょっとしてるんだな」

「可愛いコーデとかあると、つい」


 言ってから、真白さんが微笑む。


「ふふ、ちょっとは気持ちが和らいだ?」


 俺が沈んだ顔をしていることに気づいて、慰めてくれたのかな?


 ああ、俺は――。


 罪悪感がまた膨らんだ。

 こんな素敵な女性を裏切って。


「他の女と……キスして――」

「えっ」


 思わず口に出してしまった言葉に、真白さんが眉根を寄せた。


「今、なんて言ったの……?」

「俺は」


 真白さんをまっすぐに見つめる。


「真白さん以外の女の子と……キスした。ごめん」


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