10 刹那、触れ合う二人

「その……今度の週末って予定はありますか?」


 赤羽根先輩の言葉に俺は一瞬固まった。


 どうして、そんなことを聞くんだろう?

 まるでデートのお誘いのような――。


 ……いや、そんなわけはないか。

 そもそも週末は真白さんと会うからな。


「はい、ちょっと人と会う用事がありまして」


 答える俺。


「あ……そうでしたか。すみません」


 赤羽根先輩は落胆したような表情だった。


「いえ、どうかしましたか?」

「え、えっと、その、聞いてみただけです……っ」


 赤羽根先輩は慌てたように首を振った。

 視線が泳ぎ、明らかに落ち着きをなくしている。


 普段の落ち着きが嘘みたいだ。


「俺に何か用があるなら、今週末は無理だけど、来週末にでも時間を作りましょうか?」

「……本当に?」


 赤羽根先輩が顔を上げた。



「どんな用なんです?」

「用っていうか、その……」


 赤羽根先輩がモジモジしている。


 妙に歯切れが悪いな。

 この人にしては珍しい。


「で、では、思い切って言いますね。影咲希くん、来週末に私と……デート――」


 きぃぃぃぃっ!


 突然、甲高い音が聞こえた。

 スキール音……タイヤが地面を激しくこするような音だ。


「っ……!?」


 驚いて振り返ると車が猛スピードでこっちに向かってくるところだった。

 狭い路地なのに猛スピードを出している。


「赤羽根先輩!」


 俺はとっさに彼女を抱き寄せた。

 俺が道路側に体を向け、赤羽根先輩をかばうようにする。


「きゃっ……」


 驚いたような声を上げながら、赤羽根先輩が俺に抱き着く。

 車は俺たちをかすめるように通り過ぎる。


 その、瞬間――。

 赤羽根先輩は足を滑らせたのか、俺に向かって顔を寄せてきた。


 どんどん、寄せてきた。


「あ……っ!?」


 とっさのことに避けられなかった。

 ただでさえ車の方に意識を集中していて、他のことに気を回せない状況だ。


 俺は棒立ちのまま――。


 ちゅっ、と音を立てて。


 俺と赤羽根先輩の唇が重なった。


 柔らかくて、温かい唇だった。

 赤羽根先輩とのキスに、俺は一瞬――我を忘れて陶酔してしまう。


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