9 生徒会室、その後

 桐生と天ヶ瀬先輩が何やら二人で話している。


 邪魔をしてはいけない、と俺、赤羽根先輩、北条の三人は生徒会室に入らず、入口のところで立ち止まっていた。


 と――すぐに天ヶ瀬先輩が立ち上がり、こっちに来た。


「あ……」


 入口のところで俺たちに気づいたのか、ハッとした顔になる天ヶ瀬先輩。


「……見てた?」


 なぜかにらまれた。


「え、いや、あの……」

「私たちはちょうど今、来たところですよ」

「ですです」


 と、答える俺たち。


「……そう。ならいいけど、ふう……私は塾があるから、お先に失礼」


 天ヶ瀬先輩が去っていく。


 なぜか、ちょっと顔が赤かったような気がしたけど……見間違いかな?

 俺たちはそのまま生徒会室に入り、桐生の元へ行く。


 その桐生は満面の笑みを浮かべていた。


「どうしたんだ、桐生。めちゃくちゃニヤけてるぞ」

「えへへへへへへへへ」

「表情が緩みまくってるな」


 北条がジト目になる。


「どうせ、ルル先輩と会話ができて嬉しいとか、そういうことだろ?」

「えへへへへへへへへ」

「天ヶ瀬先輩と二人だったのか、桐生」


 今度は俺がたずねる。


「えへへへへへへへへ」

「だ、だめだ、喜びのあまり語彙喪失してるレベルだぞ、こいつ」

「よっぽど嬉しかったんだな……」


 俺と北条は顔を見合わせた。




 俺たちは一時間ほど作業したり雑談した後、生徒会室を後にした。


 ……まあ、大半は雑談だったわけだが。

 これはこれで部活みたいで楽しい。


 で、帰り道、俺は赤羽根先輩と二人っきりになった。

 自宅が同じ方向にあるのだ。


「ね、ねえ、影咲希くん――」

「はい?」


 いきなり赤羽根先輩が振り返った。


 顔が、近い。


「えっ……?」


 思わず仰け反ってしまった。


「あ……ご、ごめんなさい」


 赤羽根先輩はたちまち真っ赤になった。


 正直、キスでもされるのかと思った。

 赤羽根先輩が俺にそんなことするわけないのに。


「……付き合ってもいないのに、こんなことしちゃ駄目だよね……キスは、まだ……」

「えっ」

「い、いえ、なんでもないです……っ」


 慌てたように首を左右に振る赤羽根先輩。


「その……今度の週末って予定はありますか?」


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