7 桐生計は天ヶ瀬ルルに片思いしている3

 ……時間は少し遡る。


 桐生計は生徒会室に一人で座っていた。

 他のメンバーはまだ誰も来ていないようだ。


(ルル先輩と、前よりも少しだけ距離が縮まったのかな?)


 そんな手ごたえを得ていた。


 それは、半ば願望込みの手ごたえではあったが……。


 先週末、生徒会メンバー全員で遊園地に行って遊び、ルルともそれなりに話したり、一緒にアトラクションで楽しんだり……と一種の集団デートのような感じだった。


 とはいえ、マイペースなルルに上手く調子を合わせられず、なかなか会話を弾ませられなかったのだが……。

 生徒会室は彼以外に誰もおらず、桐生は脳内で『一人反省会』を開いていた。


『ああ、もっと話しかければよかった……!』

『あのときの話題、もっと広げられたのに……!』

『ルル先輩、やっぱり可愛かったな……!』

『でも、元カレらしい人と偶然会ったりしたよな……』

『先輩、他の男と付き合ってたことがあるんだよな……僕は初めてなのに……』

『あの人、ルル先輩に向かって「初めての男」がどうとか言ってたよな……ううう、初めてかぁ……』

『あいつとそういう体験をしてるってことだよなぁ……』


 元カレがいたことは以前に聞いていたが、その関係がどこまで進展していたか、は知らなかった。


 キスまでならしているだろうけど、最後まではしてないかも――。

 などと思っていたが。


 脳裏に、裸で絡み合うルルとあの男の映像が浮かび上がった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ……っ」


 思わず頭をかきむしる。


「???? どうしたんだ、桐生」


 振り返ると、そこには眼鏡をかけた理知的な印象の美少女が立っていた。


 桐生の意中の少女――天ヶ瀬ルルだ。


「い、いえ、なんでも……」


 ゼイゼイと息を乱しながら答える桐生。


『そ、そうだ、過去は過去だ。僕の、ルル先輩への気持ちは変わらないぞ』


 自分自身に言い聞かせる。


「でもやっぱりモヤモヤする……ううう」

「モヤモヤ?」


 ルルがキョトンとした顔をした。


「桐生、何かあった? さっきから様子が変だよ」

「えっ、いえ、その……」


 あらためて彼女を見つめる。


 変わらず、美しい。

 変わらず、魅力的だ。


(よし、過去のことで思い悩むのはやめよう)


 せっかく、こうして彼女と話せているのだ。


 もっと建設的に――。

 ルルとの距離を縮めることに専心するのだ。


「ルル先輩っ……!」


 桐生は思いきって切り出した。


「ん? 桐生ってたまに私のことを名前で呼ぶよな」

「あ……すみません、つい」


 普段は天ヶ瀬先輩と呼んでいるが、心の中では『ルル先輩』と呼ぶことが多い。

 そのため、たまに名前で呼んでしまうのだった。


「まあ、『天ヶ瀬』より『ルル』の方が発音しやすいかもしれないな」

「え、えっと……」

「別に『ルル』でいいよ。楽だろう?」

「で、で、では、お言葉に甘えて――っ」


 名字から名前呼びに変わった。


 これは、きっと関係が一歩前進したということだろう。

 桐生にとっては、それだけで天にも昇るような心地だった。


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