24 帰り道、蜜と二人っきりで

 俺たちは数十センチの距離を開け、並んで歩いている。

 この先に先輩の自宅があるそうなので、俺がそこまで送っていく格好だ。


「さっきは本当にごめんなさい。あなたの元カノさんと言い争いになってしまって」


 赤羽根先輩が頭を下げた。


「そんな……先輩が謝ることないですよ」

「影咲希くんにひどいことをした人だと思って……私、つい熱くなってしまいました。自分が恥ずかしいです」

「いえ、正直……魅花にあそこまで言ってくれて、ちょっとスッとしました」


 俺は軽く笑った。


「もう、影咲希くんったら」

「あはは」


 俺たちは笑い合った。


 ぴとっ。


 赤羽根先輩が肩を寄せてくる。

 さっきよりも距離がかなり近い。


 数センチ……というか、ほぼゼロ距離だな。

 ここまで近づかれると、ちょっとドキッとする。


 思わず赤羽根先輩の方を見ると、向こうも俺を見つめていた。


「ねえ、影咲希くん」


 赤羽根先輩の顔が真剣だ。


「はい」

「あの、その……影咲希くんは、まだ彼女のことを好きなんですか?」


 赤羽根先輩がたずねる。


 ざあっ……と。

 美しい真紅の髪が風に揺れた。


「立ち入ったことをいきなり聞いてごめんなさい。でも、気になるんです……!」

「赤羽根先輩?」


 彼女の目は真剣だった。

 一体どうしたんだろう?


「俺は……」


 あらためて魅花のことを思う。


 今の俺には真白さんがいる。

 当然、魅花のことは『過去』でしかない。


 ただ――自分の気持ちとあらためて向き合ったときに。


 魅花への未練はもうないんだろうか?


 考えてみる。


 最後は手ひどく裏切られてたとはいえ、一度は恋をして、付き合った相手だ。

 だからこそ、向き合おう。

 最後に――。


「俺は」


 いくら考えても、魅花の顔はすぐに薄れ、代わりに現れるのは真白さんの笑顔だ。

 俺の心の中に、もう魅花はいない。


 少し寂しさもあるけれど――。


 魅花との恋は……人生で初めてできた彼女との恋は、終わったんだ。


 やっと実感できた。

 そして、だからこそ――本当の意味で『次』に踏み出せる気がする。


 ありがとう、赤羽根先輩。


「未練は、ないです」


 俺はきっぱりと言った。


 言葉に出すことで、自分自身の気持ちがはっきり定まった感じだ。


「そう……ですか。よかった……」


 赤羽根先輩が小さくつぶやく。


「では……私にもチャンスがありますか?」

「えっ」

「あ、いえ、なんでもありませんっ。私の家、このすぐ先ですので失礼しますね……っ」


 言うなり、赤羽根先輩は走り去っていった。


 最後、どうして慌ててたんだろう?




***

次回から第4章です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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