17 桐生計は天ヶ瀬ルルに片思いしている2

 一方の桐生と天ヶ瀬先輩は――。


「い、いい天気ですね」

「君、天気の話題が好きなんだね」

「す、すみません、会話のバリエーションが少なくて……」

「別に嫌なわけじゃない……ふう」


 緊張しまくっている桐生と相変わらず低血圧っぽい口調の天ヶ瀬先輩。


 がんばれ、桐生……!

 見ていて、つい応援してしまう。


「え、えっと、天ヶ瀬先輩はどんな食べ物が好きですか?」

「食べ物? うーん……杏仁豆腐」

「杏仁豆腐! いいですよね、杏仁豆腐」

「うん」


 勢いこむ桐生に淡々とうなずく天ヶ瀬先輩。


 そして……沈黙が流れる。


 あれ、会話おしまい?


 もっとあるだろ!

『僕は〇〇が好きです』みたいに話題を広げるとか!

『杏仁豆腐って普段どこで買うんですか?』みたいに話題を広げるとか!


 会話を弾ませるんだ、がんばれ桐生……っ!


 気分は、親を見守る子どものようだ。

 いや、俺に子どもなんていたことないけどさ。


「もうっ、桐生のやつ、もっと頑張らないと――」


 北条がたまりかねたように進み出た。


「みんなで来るのもいいけど、彼氏と来るのもいいですよね、ルルさん」


 と、北条。


「ルルさん、新しい彼氏とか作らないんですか? ですか?」


 言いながら、チラチラと横目で桐生を見ている。


「あたし、お勧めの人がいるんだけどな~」


 ここにお勧めの男がいますよ、と言わんばかりだ。

 彼女なりの援護射撃なんだろう。


「別に。私、今は彼氏とかいらない……ふう」


 天ヶ瀬先輩が低血圧っぽい口調のまま言った。


「っていうか、低血圧だから、私」


 なんか俺の内心とシンクロしたな……。


「前の彼氏は大学生でしたっけ? 女をとっかえひっかえする奴だったんですよね……」

「そ。私の他に五人くらい女がいた。頭に来て別れた」

「……僕だったら、天ヶ瀬先輩を悲しませるような真似はしないのに」


 桐生がぽつりとつぶやく。


「じゃあ、ほら、リハビリ代わりに桐生と一緒に過ごすとか?」

「桐生くんなら、きっとルルちゃんと相性よさそうですねっ」


 赤羽根先輩も加わってきた。


「みんな、妙に桐生推し……?」


 天ヶ瀬先輩がキョトンと首をかしげた。

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