18 蜜の想いと予期せぬ再会


「いや、桐生っていい奴ですから」


 北条が言った。


「……こっちは蜜さんに近づく要注意人物だけど」


 じろりと俺をにらむ。

 信用されてないなー。


「もう、霧子ちゃんも影咲希くんと仲良くしてくださいね」


 赤羽根先輩がとりなしてくれた。


「あまり誰と誰が一緒に過ごすとか決めないでもいいんじゃないかな、って思います。みんなで仲良く過ごしましょう」

「ですね」


 うなずく俺。


「賛成。さあ、蜜さんはあたしの隣に」

「さっそくペア決めしてるじゃないか」

「あたしと蜜さんは固定カプだから」


 俺のツッコミに北条が言い張った。




 ――その後、俺たちは遊園地で楽しい時間を過ごした。


 特に桐生は天ヶ瀬先輩と二人でアトラクションに行く機会が多く、めちゃくちゃテンションが上がっているようだった。

 まあ、緊張もしているから空回り気味ではあるけど。

 そこもまた微笑ましい。


 ――っていうか、あらためて見ると、カップル多いな。


 顔を寄せ合い、楽しげに話している男女。

 腕を組んで幸せそうに歩いている男女。

 並んでベンチに座り、仲良くアイスクリームを食べている男女。


 みんな、イチャイチャしている……っ!

 イチャラブなオーラに圧倒されそうだ。


「俺も真白さんとああいう風になりたいな……」


 俺は、我知らず笑みを浮かべていた。


「さっきからずっとニヤニヤしてますね」


 赤羽根先輩が隣にやって来た。


「あれ、北条は?」

「グッズショップにいますよ。私は先に出てきてしまいました」


 言って、俺を見つめる赤羽根先輩。


「影咲希くんがニヤけているのが見えたので」

「……そんなにニヤけてました?」

「すごく」


 赤羽根先輩が力強くうなずく。


「もしかして不審人物な感じでした?」

「私は影咲希くんがどれだけ不審な行動をしても信じてますから」

「つまり不審人物な感じだったんですね……」

「ふふ、少し」


 にっこりとうなずく赤羽根先輩。


「私たちも――カップルに見えるんでしょうか?」

「えっ」

「ほら、周りはカップルだらけでしょう?」


 と、赤羽根先輩が周囲を見回す。


「カップルか……」

「いいなぁ」


 赤羽根先輩はうっとりした顔でつぶやいた。


「私も、影咲希くんと――」

「えっ」


 今、なんて言ったんだろう?

 喧騒に紛れて、よく聞こえなかった。


「赤羽根先輩、今なんて――」


 聞き返そうとしたそのとき、前方に見覚えのある人物を発見した。


「ん、あれは――」

「あんたは――」


 俺は前方から歩いてくるカップルを見つめて、呆然となる。

 向こうも呆然となっている。


 そのカップルは――。


 魅花と、新しい彼氏だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る