20 魅花は手も足も出ずに引き下がる
「どうせ、あんた処女でしょ? それとも案外ヤリマンなのぉ?」
魅花が挑発的に言った。
「言っておくけど、あたしはとっくに大人だからね? あんたより年下だけど、一通り経験してんのよ」
「『一通り経験』すれば大人ですか。随分と簡単なんですね、あなたの定義する『大人』になるのは」
赤羽根先輩は普段の柔和な笑みが消え、冷ややかに魅花を見つめていた。
「性体験の有無にかかわらず、『大人』ならまず他人に対してしかるべき配慮をするものではないでしょうか? 初対面の相手のプライベートに無遠慮に立ち入ったりはしませんし、破廉恥な質問を衆人環視の中で投げかけることもしないと思いますよ? それは『大人』であれば当然持ち合わせている『社会性』が著しく欠如しているのではないでしょうか?」
「ぬぬ……」
赤羽根先輩の切り返しに魅花が言葉を詰まらせる。
「う、うるさいなー……! で、どうなのよ? もしかしてキスもまだなんじゃない? あたしが適当な男を見繕ってあげよっか? ん?」
反撃を試みる魅花。
「それで、あなたは軽々しくそれを捧げて大人になった後――どうなったのですか? その男性と大人としての関係を築いているのでしょうか?」
「っ……!」
普段から気が強い魅花が、完全に圧されていた。
「あ、当たり前……じゃない……っ」
「それはよかったですね。簡単に股を開いた後、それで相手が満足してあっさりと捨てられる――ということにならなくて」
「っっ……!」
赤羽根先輩の視線がますます冷たくなり、対照的に魅花の顔は一気に紅潮した。
あるいは、心当たりがあるんだろうか。
あっさり捨てられる――。
その言葉に俺は魅花の新しい彼氏……須山阿鳥に視線を移す。
修羅場にかかわるのは御免だとばかりに、数歩退いた場所に立っていた。
「ちっ、面倒くせーな……」
などとつぶやいている。
「あー、腹立つっ。もういいよ、あんたら処女と童貞でよろしくやってれば? あたしはもう行くしっ」
魅花が怒鳴った。
「では、ごきげんよう。あ、そうそう――」
赤羽根先輩が俺に軽く抱き着き、
「あなたが言う『大人』になるために、私もコータくんと性体験でも積もうかしら? 一度でも性行為をすれば『大人』なんですよね、あなたの考えによると……ふふふ」
「なっ……! そ、そんな意地のためにコータとエッチするっていうの!?」
「あなたと彼の関係はもう終わったんでしょう? 私が彼とどうしようと勝手ではありませんか?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……っ」
魅花が悔しげに唇を噛みしめた。
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