14 現状維持か? 先へ進むのか?

『関係が壊れるより……現状維持の方がいいな、私』


 真白さんの言葉を俺は呆然と聞いていた。


 どう答えるべきなのか。


 ただ、今の言葉を聞いた瞬間に予感がした。


 このまま、俺たちは距離を縮められない。

 このまま、俺たちは『体だけの関係』として落ち着いていく。

 このまま、真白さんと恋人同士になることはできない――。


「……嫌だ」


 俺は彼女を見つめた。


 ここで押さなきゃ、もう真白さんとは永遠に今のままだ。

 一歩も進めない。

 だから――。


「俺は体だけじゃなくて、心の結びつきが欲しい。真白さんと――」

「コータくん……?」


 今度は真白さんが呆然とした様子だ。


「関係が壊れるのが怖いなら……一歩ずつ近づいていけばいい。壊れないように、少しずつ距離を縮めていけばいい」


 キスの合間にそう言いながら、俺は泣きそうになっていた。


 彼女に拒絶されたらどうしよう、という不安感。

 彼女を失いたくない、という恐怖感。

 そして、彼女ともっと深い絆を結びたいという――熱情。


 いろんな気持ちが、俺の中でない交ぜになっていた。


「コータくんは……本当に私でいいの……?」


 真白さんがささやく。

 彼女の声も、泣きそうな声音に聞こえた。


「真白さんが、いいんだ」


 俺は力を込めて言った。


「年齢差があることは分かってる。俺はまだ学生で、真白さんは社会人で――真白さんから見たら、俺なんて子どもかもしれない、ってことも分かってる。ただ、それで自分の気持ちを抑えこむことはできない。好きだっていう気持ちから目を逸らすことも。真白さんと――本当はどうなりたいのか、って考えたときに、答えは一つしか出なかった……」

「コータくん……」


 真白さんが深々と吐息を漏らす。


「それって……現状維持じゃなく、前に進みたいってことよね?」

「ああ」

「それって……行きつく先は、恋人同士だよね?」

「俺は、真白さんとそうなりたい」


 即答する。


「っ……!」


 真白さんが息を飲むのが分かった。


 ――沈黙が流れた。


 彼女からの答えはない。

 眉間を寄せ、何度もため息をつき。


 考えを巡らせている。

 気持ちを整理している。


 俺はそれを静かに待った。


 真白さんが納得いくまで迷って、悩んで、考えて――その答えを受け止めたいから。


 やがて、どれだけ時間が経っただろうか。


 十分?

 二十分?

 それとも一時間以上……?


 時間の感覚さえ失せたそのとき、


「私は――」


 真白さんがゆっくりと口を開いた。


 彼女の答えを、俺は身じろぎ一つせずに待つ――。

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