5 霧子と二人っきりで


「これ、全校生徒用にコピーしなきゃいけないから」


 北条が何枚かのプリントを持ってきた。


「コピー機は職員室にあるやつを借りることになってる。いくぞ」

「ああ」


 俺たちは職員室がある二階へと向かう。

 階段を下りながら、北条がぽつりとたずねた。


「なあ……なんで蜜さんはあんたを選んだんだ?」

「えっ」

「あんた、蜜さんと親しいのか?」


 北条が足を止め、俺を見つめる。


「いや、昔の知り合いだけど、しばらく離れてたし……再会したのはさっきだよ」

「昔の知り合い……」

「小学校が同じだった時期があるんだよ。その後、赤羽根先輩は他に転校していった」

「昔馴染みか……はっ、まさか元カレじゃないだろうな!」


 北条が俺をにらんだ。


「い、いや、違うって」

「本当か?」


 じろり、とさらににらまれた。

 はっきり言って怖い。


「君は赤羽根先輩をすごく慕ってるんだな」

「当然だろ」


 北条がニヤリと笑う。


「あたしの憧れで、目標なんだ。美人で、なんでもできて、気品もあって……いつか蜜さんみたいになりたい」

「憧れ、か」

「だから……蜜さんに変な真似をしたら許さないからなっ」

「し、しないって」


 北条のすごい剣幕に俺は思わずたじろいだ。


「男なんて、大概の奴はいやらしいことしか考えてないんだから。絶対そうだ」

「人それぞれじゃないかなぁ……」

「蜜さんに悪い虫がつかないようにしないと……ぶつぶつ。いっそ、あたしが蜜さんに……あ、いや……」


 北条はなおも険しい表情でつぶやいている。


「だいたい、男子メンバーなら桐生だっているだろ。あっちはいいのか?」


 ふと好奇心でたずねてみた。


 雰囲気的に、生徒会の四人は仲がよさそうである。

 桐生と北条もそうだ。


 俺に対するような険しい態度がない。


「あいつは――大丈夫だ。真面目だし、それに」

「それに?」

「他に好きな相手が……いや、なんでもない」


 言いかけて、首を左右に振る北条。


「うん?」

「……ま、見てればモロバレだけどな。とにかく、話はこれでおしまいっ。職員室に行くぞ」

「分かったよ」


 俺は苦笑しつつ、北条と一緒に階段を降りていった。

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