15 春歌が同級生グループにざまぁする

 当時、俺は小学三年か四年くらいだったと思う。


 それは、ある日の……学校の中庭での出来事だった。


 俺の目の前で一つ年上の赤羽根先輩――蜜ちゃんが数人の男女にからかわれていた。

 綺麗な、赤い髪を。


 いや『からかう』なんてものじゃない。

 言動は次第にエスカレートし、やがて彼らが蜜ちゃんを取り囲んだ。


 陰湿な男女のグループがそれに目をつけ、ハサミで無理やり切ろうとしている――。


「や、やめろ!」


 俺は反射的に飛びだしていた。


 ケンカなんてしたことがない。

 人を殴ったことなんてない。

 暴力沙汰なんて、とても無理だ。


 でも、守らなきゃと思ったんだ。


 怖かったけど、体が勝手に動いていた。


 奴らの前に出て、震えが止まらなかったのを覚えている。


 相手は全部で七人。


 体格だって俺より大きいし、勝てるわけがない。


「うう……」


 体がますます震える。


「へっ、なんだよ、こいつ?」

「ビビってるなら最初から出てくんなよ。あ?」


 彼らがすごむ。


 めちゃくちゃ怖いけど、俺は無理やり足を踏み出し、蜜ちゃんの前に立った。

 彼女を守るために――立った。


「おいおい、こいつを守ろうってか?」

「何カッコつけてんだ、おらっ!」


 一人が苛立ったように声を上げ、殴りかかってくる。

 俺は反応できない。

 恐怖に立ちすくむだけ――。


「下がってて、コータくん」


 声とともに、俺のすぐそばをすさまじい風圧が駆け抜ける。

 それが竹刀の一撃だと気づいたのは、後のことだ。


 一閃――。


「ぐえっ!?」


 強烈な打ちこみが、俺に殴り掛かってきた男子を吹っ飛ばした。


 たった一撃で。


「えっ……!?」


 振り返ると、そこに立っていたのは黒髪ポニテの美少女――春歌だった。


「やほー、騒ぎを聞いて助けに参上っ!」


 春歌が俺に向かってⅤサインを出す。


 つ、強い……。

 春歌ってこんなに強かったのか。


「言っておくけど、その子はボクより強いからねっ」


 春歌が蜜ちゃんを見て、言った。

 えっ、そうなの?

 おとなしそうな美少女、って外見なんだけど――。


「あ、でも、そのうち追い抜くからっ。あくまでも『今は』ボクより強いって意味だからね! 最終的に、ボクが最強になる予定だから! そこんとこ勘違いしないよーに!」

「……なんか論点ズレてないか?」

「あれ? 最強論議じゃなかったっけ?」

「違う、蜜ちゃんを助けるって話だ」

「あ、そうだそうだ。忘れてた……じゃなかった、忘れてないよ!」


 こいつ、最強論議に夢中になって、本気で忘れかけてたな。


 まあ、ちゃんと蜜ちゃんを助けてくれたし、文句はないけど……。


「な、なんだよ、お前!」

「お前も切るぞ切るぞ~」


 キレた一人がハサミを手に迫る。


 かんっ……!


 その瞬間、彼のハサミがはたき落とされた。


「力に訴えかけるのは好きではありませんし、できれば穏便に済ませたかったのですが……さすがに反撃させてもらいますね」


 そこに立っていたのは、蜜ちゃんだった。


 右手には小さな木切れ。

 まさか、あの木切れ一本で反撃したのか……?


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