12 未練があるのはどっち?(魅花視点)


「あー、むかつく!」


 魅花は足音も高く廊下を歩いていた。


 イライラが止まらない。


 コータはまだ自分に対して未練を抱いているのだと思っていた。

 確信していた。


 まさか、彼があんな答えを返すとは思っていなかった。


(き、きっと無理してるだけよ! あいつがあたしのことを……もうなんとも思ってないなんて! ふざけんな、あたしに魅力がないって言いたいの!?)


 また、イライラが募る。


 周囲の生徒が驚いたように道を開けた。

 自分はそんなに怖い顔をしていたのだろうか。


 だが、怒りを抑えられない。


「いいもん、別に! あたしには阿鳥さんがいるし! そうだ、阿鳥さんにLIMEでもしよ……」


 と、現在の彼氏のことを思い起こして、怒りを鎮めようとする。


「LIME、LIME……っと」


 スマホを取り出したものの、指先が止まる。


 気持ちが乗ってこない。


 なぜか脳裏にコータの姿がこびりついて離れないのだ。

 なぜか阿鳥のことより、コータのことが気になるのだ。


『俺と魅花の関係はもう終わってるから』

『……未練がないって言いたいわけ?』

『ああ』


 先ほどの会話が耳元で反響する。

 何度も、何度も。


 魅花はスマホを握り締めたまま立ち尽くした。


「なんだっていうのよ、もう……っ」


 怒りの言葉は、力を失っていた。


「はあ……」


 魅花はスマホをしまうと、肩を落として歩き出した。


 何かに、強烈に打ちのめされた気持ちだった。


 敗北感にも似たこの感じは――なんなのだろう。

 この気持ちの出どころはなんだろう?


「あー、もういいや、なんでもっ。考えるのやめよっ……」


 魅花は首を左右に振ると、力なく歩き続けた。



***

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