11 魅花は屈辱で逃げ帰る

「本当に友だち止まりなの? もしかして、あんた……コータが好きなんじゃない? だから、あたしに突っかかってくるんでしょ」

「好きだよ。当たり前でしょ」

「えっ!?」


 いきなりの告白に俺も魅花も固まった。


「友だちとしてっ」

「び、びっくりした……そりゃそうだよな」

「当たり前だよ! なんでいきなりコータくんに恋の告白しなきゃいけないのっ」


 驚く俺に、春歌が軽くふくれた。


「あ、別にコータくんに魅力がないとか、そういう話じゃないからね。ただ、ボクたちの関係はそういうのじゃないってだけ」

「分かってるよ」


 律義にフォローを入れてくる春歌に、俺は苦笑した。


「ま、なんでもいいけど……」


 魅花は呆れたように肩をすくめ、


「コータには悪いと思ってる。でも、他に好きな人ができたのはしょうがないでしょ。それとも何? もう好きでもなんでもないけど、コータとこれからも付き合えばいいわけ? 意味あるの、それ?」

「ボクが言ってるのはそういうことじゃない。コータくんに対してひどいことをしたって自覚はあるの? これじゃ、コータくんがあまりにも――」

「うざいのよ、あんた」


 魅花が不快そうに顔をしかめる。


「っていうか、これはあたしとコータの問題でしょ? 何、もしかしてコータはあたしに未練たらたら? 復縁を迫るために春歌をけしかけたわけ?」

「違う! コータくんはそんなことしないよ! ボクが勝手に――」

「二人ともケンカはしないでくれ。俺と魅花の関係はもう終わってるから」


 俺は二人を見ながら言った。


 言いながら――自分の気持ちが整理されていくのを感じた。


 そう、『俺と魅花の関係はもう終わっている』という言葉。

 はっきりと口に出したことで、自分の気持ちを明確化できた感じがある。


 終わったんだ……。


 楽しかったけれど。

 好きだったけれど。


 それはもう過去のものなんだ。

 過去にしていかなきゃいけないんだ。


 そうして、先へ進んでいかなきゃいけないんだ。


「……未練がないって言いたいわけ?」

「ああ」


 俺は魅花を見つめた。


「っ……!」


 なぜか彼女は表情をこわばらせた。


「……むかつく」

「えっ」


 魅花は怒ったようにそっぽを向くと、去っていた。

 まるで、逃げるように。


「どうしたんだ、あいつ?」

「未練がないって言われて、プライドが傷ついたんじゃない」


 春歌が言った。


「魅花ちゃんは新しい彼氏に夢中でコータくんに未練なんてないけど、コータくんのほうは魅花ちゃんに未練たらたら……そんな図式で優越感を味わいたかったのかもしれないね」


 と、ため息をつく。


「魅花……」

「だから、吹っ切れたみたいなコータくんを見て、気持ちをくじかれたんだよ。そんな表情をしてた」

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