9 アラサー清楚お姉さんの恋心(真白視点)


 静かな寝息が聞こえてくる。


 真白の隣でコータがぐっすりと寝入っていた。


 彼女の方も『行為』の後に一度は眠ったのだが、気持ちが高ぶっていたのか、深夜に目が覚めてしまったのだ。

 体の内側が火照っているような感覚があった。


「まだ、ちょっと熱い……!」


 真白はそっと下腹部を撫でる。

 コータが自分の中に入り、交わった証の熱だ。


「ふう……」


 その熱はとても温かくて、嬉しくて、同時に切なくもあった。

 コータに視線を戻した。

 あどけなさの残る寝顔だった。


「高校生……だものね」


 十代の少年らしい若さや瑞々しさを感じずにはいられなかった。


「私はアラサーかぁ……」


 現在は二十九歳、来年で三十歳になる。

 十二歳の年齢差は、彼女にとって重いものだった。


(コータくんとは十二歳も離れてるんだ……夢なんて見ちゃだめだよね)


 真白は再びため息をついた。


 年齢差など、最初から分かっていたことだ。

 昔の想いや懐かしさ、酒の勢い、そして傷ついたコータを慰めたいという気持ち……それらが積み重なり、弾けて、この関係が始まった。


 自分から、始めた。


 だけど――彼にとってはどうだったのだろう?

 年上のお姉さんにいきなり襲われて、なし崩し的に体の関係になった……という認識なのだろうか。


(期待したら、後でつらくなるだけ……今のうちに距離を作っておかなきゃ)


 だけど……気持ちを完全に抑えることはできない。


 彼にどんどん惹かれていく自分がいる。

 いや、本当は――きっとあのころから惹かれるものはあったのだ。


 ずっと心の中にくすぶっていたのだろう。

 それがコータとの再会で一気に噴出したのだ。


(そう、今だけだから……今だけ、この気持ちに浸ろう)


 真白はコータに顔を近づけ、そっと頬にキスをした。


 寝顔が可愛らしい。

 年の離れた弟のように可愛がっていた『親戚の男の子』そのものだ。


「あと少しだけ……恋人気分に浸らせてね、コータくん……」


 真白はそう呼び掛けてみた。


 コータは起きない。


「あと……少しだけ……」


 真白はつぶやき、横になった。

 ゆっくりとまぶたを閉じる。


(それからサヨナラしよう)


 言ってみれば、期間限定だ。


 それくらいの夢なら、見てもいいだろう――。

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