7 アラサー清楚お姉さんの『肉食系女子』スイッチ


「ねえ、コータくんってご両親が県外に赴任してるから、ここで一人暮らしなのよね? ご両親とは会ってないの?」

「親は『休みの日は二人きりで過ごしたいから』とか言って、全然こっちに来ないんだよ」

「へえ、いいなぁ、そういうの」


 真白さんが目を輝かせた。


「結婚して十年以上経ってもラブラブなんだね」

「まあ、仲はいいな。ときどき、見てるこっちが恥ずかしくなるけど」

「いいじゃない。憧れるなぁ。乙女の夢だなぁ」


 真白さんは目をキラキラさせていた。


 ああ、こういうところは昔から変わってないなぁ。

 ベタな展開の恋愛漫画とか恋愛ドラマとか大好きだったもんな。


「真白さんは結婚願望あるんだ?」

「うん、したい。切実に。したい」


 力を込めて、言った。


「結婚かー……」

「っ……! あ、ご、ごめん、昨日のことを言ってるわけじゃないからね。コータくんに重荷を背負わせたりしないから……」

「えっ」

「私が初めてだったから、コータくんが責任取ろうとするんじゃないか、って思ったの」

「責任……」


 確かに真白さんは処女だったからな。


 前時代的かもしれないけど、責任を取って結婚する、みたいなことを――。


「考えなくていいからね」


 俺の内心を読んだように、真白さんが言った。


「年の差もあるし、コータくんはもっと同年代の女の子を選んだ方がいいよ」

「真白さん……」


 なんか距離置こうとしてない……?


「そんなこと言われても……俺はもう真白さんとこういうことになっちゃったんだし……」


 俺は真白さんを見つめる。


「その場の勢いだけで、あんなことをしたわけじゃない」

「……そんなの、私だって同じよ」


 真白さんが俺を見つめ返す。


「いいの? 私、もうすぐ三十歳だよ?」

「いいよ」


 俺は即答した。


 言いながら、顔中が火照るのを感じた。

 頭の中も顔の表面も、全部ゆだってるような感覚だった。


 冷静に考えることができない。

 熱情が全身を駆け巡り、思考がまとまらない。


 ただ、これだけは分かる。


 俺はもっと真白さんのことを知りたい。

 もっと距離を近づけたい。


 自分の中の真白さんへの気持ちと、これからのことに――はっきりとした答えを出したい。


 だから俺は――。


「んん……っ」


 突然真白さんが俺を抱き寄せ、いきなり唇を奪ってきた。


「……いいの? 私、たぶんスイッチ入っちゃうからね?」


 唇を離した真白さんが俺を見つめる。

 その瞳が妖しい光を宿していた。


 スイッチが入る――。

 たぶん、昨夜の『肉食系女子』っぽいモードへのスイッチのことを言ってるんだろう。


「んんんっ……」


 ふたたび真白さんが俺の唇を奪う。

 今度は舌を絡めてきた。


 ちゅく、ちゅく、と互いの舌を吸い合いながら、俺たちは夢中でキスを続ける。

 同時に、高まる期待感で俺は胸を疼かせていた。

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