6 真白とふたたび……
長い黒髪が風になびいている。
清楚そのものの美貌が薄闇の中で幻想的に浮かび上がる。
俺はそんな彼女の姿に見とれてしまっていた。
昨日、そして今朝――俺はこの人と体を重ねたんだ。
なんだか照れくさくて、くすぐったくて、甘酸っぱい。
「ど、どうも」
「え、えへへ」
俺たちは互いに曖昧な言葉をかけあう。
「また、会ったね……えへへ」
「だよね、はは……」
何を話せばいいんだろう、という感じだ。
頭の芯がカーッとなって、すぐに言葉が出てこない。
一方で心臓は急に鼓動を速めていた。
どくん、どくん、と耳元まで音が聞こえそうだ。
「え、えっと、俺は今から、その、帰るところで……」
「あ、そっか。ごめんなさい、家でゆっくりしたいよね、あはは」
「い、いや、そういう意味じゃないんだ……その」
うう、会話がぎこちない。
こんなの初めてだった。
疎遠になる前は、会話に詰まることなんてなかったのに。
再会してからも、真白さんが相手だとスラスラ話せたのに。
……ちなみに普段の俺は、女性相手にあんまり上手く話せない。
まともに話せるのは春歌くらいだった。
「じ、じゃあ、もうちょっとコータくんと一緒にいたいな……?」
真白さんが俺を見つめた。
「もし、よければ――」
「も、もちろん……っ」
俺は勢い込んでうなずいた。
「じゃあ、俺の家に行く? それとも真白さんの――確か、この近くに住んでるんだよね?」
「ええ。コータくんのアパートからは歩いて十分くらいだと思う」
真白さんが微笑んだ。
「あ、でも、私の家はまだ散らかってるから……あんまり見られたくないかも」
と、恥ずかしそうに付け加える。
「分かった。それなら俺の家に行こう」
言いながら、また照れくささがこみ上げてきた。
一緒に家に行く。
また部屋の中で二人っきりになる。
その行きつく先は――と想像すると、頭の中がカーッと熱くなる。
昨日や今朝みたいな展開になるんだろうか?
俺はまた真白さんと――。
緊張感とドギマギした気持ちと、そして期待感と。
いくつもの感情がないまぜになりながら、俺は真白さんと並んで歩き出した。
自宅に向かって歩いている間、ずっと俺の心臓は痛いほど鼓動を打っていた。
ほどなくして、アパートに到着した。
「……どうぞ」
「……お邪魔します」
あいかわらず俺たちの間にはぎこちない空気が流れている。
家の中に入ると、その空気がさらに増した気がした。
「あ、お茶……入れるよ」
「ありがと、コータくん」
「その辺に座って、真白さん」
「そ、そうね、ありがと……きゃっ」
台所に行こうとする俺とリビングに向かおうとする真白さんの進行方向が交差し、体が軽く当たってしまった。
すぐ目の前に真白さんがいる。
息遣いが聞こえそうだ。
「真白……さん……」
「コータくん……!」
至近距離で見つめ合う。
ぷるんとした唇が視界に入った。
キスしたい――。
強烈な衝動が沸き上がった。
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