5 春歌にほっこり、真白にドギマギ

 俺は春歌とともに駅前の『爆裂バーガー』に来ていた。


 赤く塗られた屋根に黄色い『爆』という文字が据え付けられた特徴的なデザインの店舗だ。


 俺たちは店内に入ると、それぞれメニューを注文し、並んで席に座る。


「いただきまーす」


 俺も春歌も腹を減らしていたため、すぐに食べ始めた。


「もぐもぐ……おいし……もぐもぐ……おいし」


 実に幸せそうに食べる春歌だった。

 まあ、あんまりジロジロ見るわけにはいかないけれど。


「じー」

「ん?」

「コータくんの『ブーストトマトバーガー』美味しそう」

「うん、俺トマト好きだから」

「いいなぁ」

「お前は自分の分を食べただろ」

「コータくんのもシェアしたい」

「シェアってなんだよ。要は食べたいんだろ」

「ん」


 小さくうなずく春歌。


 しょうがないな……。

 俺はとりあえず、一部分を切って渡した。


「やったー! やっぱりコータくんは友だちだ」

「はいはい」


 俺たちは熱い友情を確認した。


「もぐもぐ、おいし」

「一瞬で食べたな……」


 っていうか、最初にこいつが食べたのってハンバーガーセット三人前だったんだが。


「あいかわらず、よく食うな」

「ぶー。女の子に向かって『よく食う』は厳禁だよ、コータくん」

「ん? お前もそういうの、気にするのか」

「ボクだって女の子だからねっ」

「まあ、そうなんだけど……いや、悪かった」

「あ、ううん。謝るようなことでも……律儀だね、コータくんって」

「そうかな」

「うん、いい人だよ。たぶん。おそらく。もしかしたら」

「いや、そこは断言しろよ」


 俺はジト目気味に春歌を見た。


「いちおう、この店に寄った趣旨って『失恋した俺を慰めること』だよな?」

「う、うん。別にボクがおなかすいたし、一人で『爆裂バーガー』に入るのが寂しかったから、とかじゃないよ?」

「今、本心が出なかったか?」


 ジト目になる俺。


「で、出てないよ……っ。うん、出てないったら出てない……っ」

「目が泳ぎまくってるんだが」

「ボクは平静だよ? 動揺してないよ?」

「嘘つけ」

「にゃはは」

「まったく……まあ、いいけど」

「えへへ。ハンバーガーを食べたかったのは本当だけど、コータくんを慰めたいのも本当だよ」


 春歌が微笑む。


「……ありがとな、春歌」


 真白さんもそうだけど、春歌と一緒にいて、さらに気持ちが軽くなった。


 本当、持つべきものは友だちだ――。




 そして夕暮れ時になり、俺は春歌と別れた。


 数時間、一緒に過ごして楽しかった。


 取りとめもない話をしたり、適当に店に寄ったり……男女の性差も関係なく、肩ひじ張らずに接することができる友人は、本当に貴重だ。


 ……まあ、俺の場合、友だちも少ないからな。

 ぜ、絶無ではない……たぶん。


 で、自宅のアパートに向かう途中――、


「コータくん……?」


 声をかけられて振り向くと、そこに真白さんが立っていた。

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